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『日陰』

白線の上だけ歩いて、はみ出てはいけない。
黄色いナンバーの車を10台見たらラッキー、途中で緑色のナンバーを見たらゼロからやり直し。
霊柩車を見たら親指を隠す。

子供の頃にはいろんな決まりがあった。
それもいつの間にかみんなの間に広まって、まるでゲームかなにかのように面白がってやる類の。

そのうちのひとつに、こんなのがあった。

日陰から日陰へ移る時には、10歩以内でないと影に飲み込まれる。

それが流行った時には、みんな下校途中に建物のある道を選んでいた。
ある時、私は友人と別れて一人になり、ふとその決まりを思い出して日陰を渡り歩いて帰ろうと思い立った。

なぜその時そう思ったのかは覚えていない。
それに思い立ったということは、普段はやっていなかったのだろう。
それくらい緩い、気が向けばやってみる、くらいの“決まり”なのだ。

大股で三段跳びみたいにジャンプしながら10歩以内におさめたり、余裕で数歩で渡ったり。順調に進んでいたが、国道を渡るところでほとんど日陰のない場所に出てしまった。

国道の向こう側には日陰がある。
ジャンプしながら渡っても10歩では難しそうだった。
もうやめる、という選択肢はなかった。そんなこと、思いつきもしなかった。

私はドキドキと不安に脈打つ鼓動を抑え、一歩を踏み出した。
呪文でも唱えるみたいに、歩数を呟く。見えないなにかに、祈りでも捧げるみたいに。

1/30/2025, 7:13:41 AM