彼の女は泡と成り果てた。
自分とは、其れを嘲笑する愚者のひとりである。
◇
悪い夢を見ていたらしい。ふと目を覚ませば其処は至って何の変哲もない、また慣れ切って面白みの一欠片も無い自室であった。みづからの身躯は堂々と当然の様にベッドに横たわってゐる。______何とも言い難い敵意、暮靄の様に美しくは無いが同じく等しく薄惘と己が脳に蔓延する倦怠感。正しく不愉快とはこういう事を云うのであろう。大して温もりも感じない布団から這い出た後、私は苛立ちに任せてベッドの脚を蹴ってやった。
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「アハゝゝゝ、君、熱起に成ッて哲学だとか云う物を咄したッて抑々学問に向いて無い人が咄すンだ。中身も何にも有リャしねイ事ア......幾程何でも私にも判りまッせ」
ト、マア斯様な物云いで在りますンで到頭呆気に取られた。
「ウー、然うか、ダガ彼は可也丸め込むのが上足い。
尤もらしく聞える事をペラペラと口ッ喋ッてサ」
眉間に川の字寄せて如何にも不可しいと云いた気な様子、薩張忘れられたならば寧ろ難有いと嘆き穹仰げども不快に口はへの字に曲り、不図埃が舞えば一層眉間の皺を増やし、其れを幾度か繰り返した後諦めにヘイヘイと烟を吐く。暫間が空いたンで居心地が些ッと悪くでも成ッたのか坐り直し
「真面目に喋ッた私が損をするたア
道理も腐ッて居るもんだアネ」
ト現世で一等不幸は己と云わん許の貌で在る。
6/9/2023, 10:02:25 AM