通り雨
一粒のしずくが頬を伝う。
雨だ。
天気予報では雨と言っていなかったのに。
次々と降ってくる雨粒に当たりながらも、急いで屋根のある場所まで走った。
『結構降るなぁ』
空を見上げると、さっきまでの天気はどこへやら、雨雲が頭上を覆っている。
近頃の運動不足がたたって、少し走るだけで息が上がる。
濡れた髪や服が気持ち悪い。何か拭くものを、と鞄を漁るも、今日に限ってハンカチを忘れた。
『はぁ』
全く、今日はついていない。
目の前をひと組の男女が通ってゆく。
ひとつの傘に二人で仲良さげに歩いていくのをぼーっと眺めていた。
恋人同士なのだろうか。羨ましい。
昨日までは隣を歩いていた人がいたのになぁと、彼らに自分を重ねてしまった。
目元が熱くなるのを感じて、ぽつりとしずくが頬を伝う。
音を立てて降る雨が、ひとりのこの空間の静けさをより感じさせた。
ひとりぼっち、取り残されたみたい。
『あれれ、こんなとこで雨宿りですかー?』
その声にパッと顔をあげると、にやけずらの友人がこちらを覗き込んでいた。
『なんでいるの』
『なんでって、たまたま通りかかっただけだよ』
『うそ』
じゃあなんで傘ふたつ持ってるの。
なんて、泣きそうになる。
『細かいことはどうでもいいじゃん。そうだ、今からスタバ行こう!新作、ずっと飲みたかったんだよね〜付き合って』
全く、こっちの気も知らないで。
相変わらずへらへら笑う友人に、何もかもどうでもよくなってしまった。
『全く、キミってやつはさ』
勢いよく立ち上がって、傘を奪って走り出す。
『いいじゃん!奢るからさー!待ってってばー!』
友人とふたり、雨の中へ飛び出していく。
隣を歩く友人の姿に笑みが溢れた。
雨はサッと降ってきてパッと上がっていった。
9/28/2022, 7:34:03 AM