霜月 朔(創作)

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雨上がり



雨の街を、独り歩く。
傘を叩く雨音が、
私の溜息を消してくれた。

今はもう、
隣にいない彼奴の面影を、
雨の向こうに見た気がして、
慌てて、首を振る。

彼奴が再び差し出した手を、
掴まなかったのは、
私の方なのに。
彼奴の哀しげな瞳が、
あの日から、心に焼き付いて、
離れずにいる。

雨上がり。
雲の隙間から差し込む、
遠慮がちな日差しに、
水溜りに光が滲む。

そんな僅かな煌めきさえ、
こんな、私の心には、
眩し過ぎて、目を逸らす。

ずっと、雨なら良かった。
そんな自分勝手な願いを呟く。
雨粒で涙を隠し、
傘で顔を隠し、
上着で心を隠せるから。

太陽から逃げるように、
家路を急ぐ。
人の目を避け、足早に、
塒に逃げ込む野良猫の様に。

そして、
暗く、光の届かない窖で、
独り、自分の傷を舐め、
痛みに耐える。

私には、二度と、
雨上がりは、訪れない。

いずれ、彼奴は、
雨上がりの街を、誰かと、
歩いて行くとしても、
私は降り止まぬ雨を、独り、
窓越しに眺めることしか、
出来はしない。


6/2/2025, 6:38:39 AM