雨に佇む、とはつまるところこういう感じなのだろうか。先程まで読んでいた小説の表現を使うなら濡れ鼠。けれど君は確かに扉の向こうに佇んでいた。
天気予報は今日一日雨予報、外出せずにのんびり過ごそうと思った矢先に君はインターホンを鳴らしたのだ。ドアを開ければ夢でも幻覚でもなく、君は確かにそこにいた。傘を持たず全身ずぶ濡れな君は力無く笑っている。とりあえず中に入れようと声を掛けかけた瞬間に君が言った言葉は、確かに二人の時間を止めた。
「最後に、君に会いたくて」
君はぽつり、ぽつりと零していく。もう疲れたのだと、生きてはいられないのだと。弱った声と姿でも、表情はずっと笑顔だった。力ないけれど、本心の。
「今から死んでくるんだ。会えて嬉しかった」
「待って」
声をかけてしまった、止めてしまった。考え無しではあるが、口をついて出たこの言葉は間違っていない。自分ではこれが最善で、本心だから。
「連れてって。一緒に逝かせて」
一人で雨に佇むのは、さむいから。
[雨に佇む]
8/27/2022, 12:27:53 PM