G14

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 俺の名前はアレク・セイ。
 誇り高き空軍学校の、戦闘機パイロット候補生。
 空軍学校創設以来の、伝説的な成績で戦闘機乗りになった男だ。

 と言いたいところだけど、万年補習の落ちこぼれ。
 赤点回避した日には、カンニングが疑われる始末。
 俺はバカなのだ。

 あ、伝説的ていうのは嘘じゃない。
 伝説的に悪いという意味だ

 自分で言うのもなんだが、身体能力はかなり高いので、それで学科をどうにかカバーした。
 教官からも『身体能力が化け物じゃなきゃ、とっくの昔に追い出している』と言われたくらいだ。
 学科は勝てないけれど、体を動かす系の科目は俺が一番だからな。

 そんな俺だが、この度ついに戦闘機に乗るための試験に合格し、今日初めて戦闘機に乗る。
 教官たちも苦い顔をしていたが、合格は合格。
 だれにも文句は言わせない。
 ということで、俺の専用戦闘機に乗り込こむ。

「うっひゃー。
 計器がいっぱい。
 えっと、どれを触ればいいんだっけ?」
「何かお困りですか」
「うわっ」
 俺は驚きいて変な声が出た。
 ここには俺しかいないはずなのに、なんで声が……

「誰だ!?」
「僕はこの戦闘機の補助AI。
 識別名、YAMER- 10型βタイプです
 よろしくお願いします」
 ホジョエーアイ……?
 あ、補助AIか!

「思い出した。
 俺たちの代から、戦闘機にはAIが乗ってるって言ってたな。
 それがこれか」
「その通りです。
 ではあなたのお名前をどうぞ」
「俺の名前はアレク・セイ。
 よろしくな」
「こちらこそ」

 俺とAIはお互いに自己紹介をする。
 少し話しただけだが、とてもAIとは思えないほど受け答えがスムーズだ。
 『実は人間が入ってます』と言われても信じてしまいそうなくらい。
 子供の頃、そんなアニメがあったけど、俺の生きてるうちに見ることが出来るなんて……
 科学の進歩ってスゲーな。

 そうだ感傷に浸っている場合じゃない。
 俺はこのAIに対して言わないといけないことがある。

「あのさ、言いたいことがあるんだけどいい?」
「なんでしょうか?」
「名前の事なんだけど、えっとYAMY……なんだっけ?」
「YAMER- 10型βタイプですか?」
「そうそれ!
 それ、言い辛いからヤマトって呼んでいい?」
「……はい?」
「いや、悪いね。
 俺、活舌悪くてさ。
 あんまり長いとかんじゃうのよ」

 考えているのだろうか、ヤマト(暫定)がしばらく沈黙する。
 呼び方を変えるだけなのに、何をそんなに悩むのだろうか?
 それとも、俺のカミングアウトに呆れているのか……
 『呆れる』っていよいよ人間じゃねえか

「……わかりました。
 僕の名前は、今より『ヤマト』です」
「助かるよ」
「噛んでパニックになられても困りますからね」
「気をつけます」

 ヤマトが言外に『妥協してやったんだから噛むなよ』って言ってる気がする。
 もし噛んだら説教されんのかな?
 おお、怖え。

「アレク、僕からも一言良いでしょうか?」
「なんだ?」
「僕はアレクに謝らないといけないことがあります」
「え、何?
 怖いんだけど」

 まさか欠陥品とか言うんじゃないだろうな。
 とうか変なとこあった?
 全く分からないんだけど。
 俺は大和の次の句を待つ。

「僕は、補助AIとしては不完全なのです」
「どういうこと?」
「もともと我々補助AIは、操縦者の手助けをするように設計されています。
 刻一刻と変化する環境や敵の動きに対応するために、常に計算し続け、柔軟に適応し、パイロットの見えない部分をフォローする。
 それが補助AIの役目。
 ですが僕の場合、それが柔軟に対応できないと言うか。
 少しの誤差も許せないと言うか……」
「つまり……
 頭が固いってこと?」
「ありていに言えばそうですね」
「なるほどね」

 ヤマトは、申し訳なさそうに謝って来る。
 この歯切れの悪さ、本当に人間じゃないの?

 それはともかく、AIにも個性があるって聞いたことあるけど、このヤマトは特別マジメな性格のようだ。
 だけどマジメくんっていうのは俺にとってありがたい。

「じゃあ、ちょうどいいな」
「はあ!?」
「お。AIでも驚くことあんの?」
「人間を模しているので驚く『フリ』は出来ます」
「『フリ』ねえ」

 こいつと話していると、本当に人間と話している錯覚に陥る。
 科学の進歩ってすごい(二回目)
 ……人類に反旗を翻さないよね?

「話を戻します。
 『ちょうどいい』とはどういった意味でしょうか?」
 おお、ヤマトが追及してくる。
 どことなく、怒っているような気がする。
 馬鹿にされたと思ったのだろうか?

 俺、かなりマジメに言ったんだけどなあ。
 本当に反旗を翻されても困るので、ちゃんと説明しておこう

「俺さ、不完全っていうか、なんでも物事がテキトーなんだよ。
 やることなす事中途半端で、勉強も集中できないからテスト悪くってな」
「よくここまで来れましたね」
「俺もそう思う。
 でもさ、ちゃらんぽらんの俺と、あたまでっかちのヤマト。
 足して割ったら『ちょうどいい』だろ?」
「適当過ぎませんか?」
「そうかもな。
 でも俺の適当さを、ヤマトの固さで正してくれるんなら、俺としては助かる。
 俺、人に言われないとなんも出来ないんだよ」

 ヤマトが息をのむのが分かる。
 それもそうだろう。
 だって、自分の欠点だと思っていたことを長所だと言われたら、そりゃ困惑するわな。
 

「俺、相棒がお前でよかったよ」
「……そうですか」
「あれ、照れてる?」
「照れてません」
「ま、そういう事だよ。
 半人前の俺と、完全じゃないお前、二人で一人前さ」

 決まったな。
 そう思ったのだけど、ヤマトが沈黙する。
 セリフ、臭すぎたかな。

「アレクは……
 本当に僕でいいのですか?
 僕、不完全なAIですよ」
「俺バカだから、完全なAIと不完全なAIの違いが分からん。
 だから問題ない。
 文句あっか?」
「……アレクが良いなら、それでいいです」

 ヤマトの答えにニヤリと笑う。
 これでヤマトは俺の事を認めてくれただろう。
 お互い命を預けるんだ。
 ちゃんと納得しないとね

「よし、挨拶終わり。
 そういう訳で補助AIとして仕事してくれ。
 早速教えて欲しい事がある」
「なんでしょう?」
「この計器、なんの計器なの?」
「……」
「黙らないで」
「それ速度計ですよ。
 基礎の基礎ですよ。
 大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。
 これから覚えるから」
「早まったかもしれないなあ」

 これが俺とヤマトとの出会いだった。
 正反対の俺たちだけど、不思議と上手くいく確信が俺にはあった。
 だからどんな試練が待ち受けようとも、俺たちは超えることが出来るだろう

 こうして、不完全な俺たちの物語が始まったのだった。

9/1/2024, 1:03:58 PM