代理

Open App

寒さが身に染みて 1/11(木).

「寒いなあぁ〜…」

きんきんに冷えた手のひらを、こしゅこしゅ擦って温める。
それで冷たいのは変わらない。冬はこれだから嫌なのだ。
吐いた息が、ふわふわ、と白く染まって上へ上がる。

こんな寒さなのだ。早く家に帰りたい。
家に帰って、私の想い人である彼に、LINEを送るつもりなのだ。
そうすれば心も暖まる気がした。

「へへ…〇〇くん…」

にやつく頬をぴし、と叩く。
早く家に帰りたい。帰って暖まりに行くのだ。

信号機まで、まるで野原をかける動物の如く走り抜ける。
走れば身体も暖まる気がしたから。
暖まることばかりを考える私に、呆れの感情を抱きつつ、
赤信号になった信号機を睨みながら足を止めた。

そこに、ちらりと信号機の後ろにうつる男女の影。
カップルで帰っているのだろうか。少し羨ましい。
私は彼との妄想を脳裏に日々焼き付けている。
私にはお気に入りの妄想シチュエーションがあるのだ。

お気に入りの妄想を始めようとした時、聞き覚えのある声がした。

「わかったわかった、明日はデートするからさあ。」

「ほんとだよっ!約束ね!!」

それは、信号機の後ろにいた男女カップルの話し声だった。
微笑ましい会話。
しかし私は、どうにも笑えなかった。

その彼は、私の好きな彼だったから。
…今日は最悪の日だ。

心も身体も冷たい。
胸のあたりがちくちくする。
寒さが身に染みて、思わず涙が零れ落ちた。

信号機は、空気も読まず青く光った。

1/11/2024, 12:45:32 PM