みなづきさおう

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もう半世紀以上も生きてきたなんて...。
時々自分でもその事実に驚いてしまう。

過ぎた日々を思えば、確かにいろいろなことがあったな。
父がアルコール中毒で、わたしの学生時代は暗黒の日々だった。
母が出て行った日のこと...
夜中に電話で誰かに謝る母の声...
父が暴れてガラス窓が割れた音...
今みたいにインターネットがなかった時代、誰に相談すればいいのか、若かったわたしにはわからなかった。
そんな日々から逃れたくて、卒業を起に家を出た。
一人暮らしは楽しくて、でも安月給じゃ生活は苦しくて、気づいたら借金地獄になってたな。
助けてくれた人と結婚して、子どもにも恵まれ、今がある。
だけど、父には長く苦しめられた。
女を作って出ていった父とは、10年近く音信不通だった。なのにある日、父が入院しているという病院から連絡が来た。
恐らく余命は1年以内...。
ボロボロになっていた父。
さまあみろという気持ちと、なんでこんなことになってしまったのかと悲しい気持ちで、わたしは父を見舞った帰りの車中で一人泣いた。
後にも先にも、父の余命がわかってからわたしが泣いたのはこの時だけだ。
亡くなった時にも泣かなかった。冷たい人間に写ったかもしれない。
そんな父でも、わたしが幼かった頃には、良い思い出もある。
父が仕事をしているのをそばで見ているのが好きだった。
父の帰りを待って玄関先に立っていたこともあったな。
死んだらあの世で会えるのだろうか。会いたくないような会いたいような複雑な気持ち。
まだ直ぐに行く予定はないけれど、いつかわたしも行くんだよな、あの世に。
それまでは、将来の“ 過ぎた日々”をつくるとしよう。

3/9/2024, 1:35:49 PM