華音

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愛言葉

 私は、小さい頃ある男の子と遊んでいた。
 きっかけは、お互い幼稚園が一緒で、テレビゲームが好きだったという。たったそれだけの共通点。
 幼稚園では、新しいゲームを一緒に考えたり、当時流行ってる遊びを2人でやったりした。休日も、その子の家へ行って、夕方になるまでテレビとにらめっこしてたっけ。
 とにかく、たったそれだけの共通点で、小学校になっても仲良くしていた。
 今はお互い高校生。もう学校も違うから話すこともなくなったけど……でも、私にとってはいい思い出だった。
 ただ、実は彼に対して疑問に思うところはある。
 それは、ゲームの暗証番号だ。
 私達がゲームをする時、お互いの持ってるゲーム機器を通信して遊ぶものだったが、そこで、本人確認のために暗証番号をうたないといけない。
 設定をする時、私は2人の誕生月でいいんじゃないか。
 という提案をしたが、彼は少し考えて、それを断った。そして、「33322」にしよう。といったのだ。
 分かりやすいしなんで3と2なんだろう。と疑問に思った。勿論、当時の私もそう思っていたので、どうしてそれにするの?とだけ聞いた。
 すると彼は、「もう少ししたら、その訳話すね。」とだけ言って、上手いことはぐらかされてしまった。
 でも、3を3回。2を2回。シンプルだしいいなと思ったので、私はそれに賛成し、33322をパスワードにしたのである。
 で、そこから数年以上たった今日。未だに意味が分からない。
 まだ幼稚園だったので、お互いの連絡先なんて知らず。意味も聞けないままだ。
 ふとそんな事を思い出し、スマホに映る数々の投稿をぼんやりとしながら指で流す。
 小学校までは仲良くしていたのだが、中学にあがってから向こうの家が引っ越してしまい、そこから一切会わなくなってしまった彼。
 毎日では無いが、元気かな。と考えることがある。
 彼の事を思い出すと、毎回「33322」というパスワードを思い出す。
 あの頃の私は、33322という数字の配列が大好きで、画用紙にクレヨンで33322というのを書いて、いつも持ち歩いてたくらいだ。
 だって、この番号があれば、彼と遊べる。
 パスワードを忘れてしまうから書いている。と言うより、パスワードが好きだから書いている。の方が正しかった。
 あの頃が、急に懐かしくなる。
 画面の目の前で目元を緩ませた私に、ぴこん。と1件の通知が入る。
 友達からだ。私は連絡先に移動し、返信をする。
 明日の講習会の集合時間は、いつかというものだった。メモすればいいのに。と私は笑いながら数字をうつ。
 送ると、すぐに返信が来る。
 「ありがとう!そういえば、クレープ好きだって言ってたよね?帰り一緒に食べよう!」と書かれたメッセージが目に映る。クレープは私の大好物だ。嬉しくなって、「好きー!食べる食べる!」と、画面から目を離さずに、キーボードは一切見ないでうった。
 文をうち終わると、私はやらかしたな。と思った。
 そう、私はひらがなに直さずに数字の配列にしたままうっていたのだ。
もう1回うち直さなければ。と思い、消そうとする。
 すると、目に飛び込んできたのは、見覚えのある配列だった。
「33322……?」
 1番最初の文字の配列が、33322だったのだ。
 そして、私がうちたかった文は、「すきー!食べる食べる!」
 まさか、まさか。私は33322……ひらがなの配列にもどし、数字の通りにうってみる。
「すき」
 嗚呼。そういえば彼は、色んな電子機器を持っていたっけ……。 これは、偶然なんかじゃない。意図的に彼が仕込んだものだ。
 小さい時、彼は私の事が好きだったんだ。
 それを言えば、私だって。
 幼い彼が出した暗号。上手く伝えられなかった彼からの愛の言葉。
 私が使っていた合言葉が、いつの間にか愛言葉に変わっていたみたいだ。

10/27/2023, 9:31:10 AM