「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。公園のブランコでぼんやりしていると、人が飛んでいるのが見えた。驚いて立ち上がる。生身で飛んでいるだけではなく、箒で空を飛ぶ人や腕が鳥のような翼に変わっている人もいる。
「驚きましたか?」
いつの間にか、横に清掃員のような中年の男が立っていた。大人が入りそうなほどの大きなゴミ袋を引きずっている。
「あなたは驚かないんですか?」
「はい。皆、夢見る心を持っていますから。だから、空を飛べても不思議ではないんです」
「夢見る心?」
「 はい、簡単に言えば憧れのことです。ここは夢の中なので、それを実現することは容易なのです」
この人は、ここが夢の中と認識しているみたいだ。夢の中の住人にしては珍しい。
「もちろん、あなたも出来ますよ。やってみては?」
男に言われ、少し考え込む。夢の中で好き勝手するなんて考えたことがなかった。
「思いつかないので、考えときます」
「そうですか」
残念そうな顔をしたが、男はすぐに楽しげな声がする空に目を向けた。彼には、やってみたいことはないのだろうか。ガサッとゴミ袋が蠢いた。袋に猫が入り込んでしまったのかもしれない。こっそり出してあげよう。私は男に気づかれないようにゴミ袋に近づいた。
「…すけて、助けて、誰か…」
「怖いよ…」
「ここから出して…」
「お家に帰りたい…」
助けを求めるか細い子どもたちの声が、ゴミ袋から聞こえてきた。驚いて声を上げそうになったが、何とか抑え込む。どうやら、男は誘拐犯らしい。助けてやりたいが、すぐにバレるだろう。
「そろそろですね。おや、どうしました。ゴミ袋に興味でも?」
男は振り向き、私に微笑みかけながらゴミ袋を掴んだ。
「そのゴミ袋、子どもの声が…」
男はバレたか、と言わんばかりに自分の額を軽く叩いた。
「驚かせてすみません。これが仕事なんです。上に、夢見る心を回収するよう依頼されているので」
男が空に向かってゴミ袋をサッと振ると、飛んでいた人は急に落下した。
「夢見る心を回収したので、さっきの人たちはもう飛べませんね」
「でも、子どもの声が…」
「はい、そうですね。夢見る心というのは、実は童心のことなんです。心の中の子どもを回収したので、子どもの声が聞こえるんですよ」
それでは、とゴミ袋を引きずりながら男は公園を後にしようとする。何かないか、と地面を見ると折れた木の枝が落ちていた。振り回すのに、ちょうど良い木の棒だ。そうだ、これを…。私は剣を構えるように木の棒を振り上げ、ゴミ袋に向かってまっすぐ振り下ろした。途端に目の前が真っ白になり、たくさんの子どもの笑い声が私の横を駆け抜け去っていった。
「あーあ、全部逃げちゃいました。先にあなたから回収すれば良かったですね」
言葉とは裏腹に、男は何故か愉快そうに笑っていた。

4/17/2026, 9:52:40 AM