見咲影弥

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 成人おめでとう。

会場の受付で係の人に声をかけられ、僕は適当な会釈をした。内心、何がめでたいんだかと反発したくなる思いもあるけれどそこはぐっと堪える。

成人式には、身の丈に合わない高級スーツを来て出向いた。自分のバイト代で見繕うのは無理があったので、両親に工面してもらったが、たかだが一日のためにここまでしなくとも、と思ってしまう。しかし会場は袴やら振袖やら、まぁなんとも豪勢な衣装をお召しの方が多くいらっしゃって、僕なんかはかすんでしまうほどだ。

 会場にはひっきりなしに下品な笑い声が響いている。あの頃の教室を思い出して吐き気がした。

 辺りを見回すと目に映るのは、鮮やかな髪色、奇抜なメイク。ホストやキャバ嬢のような風貌の成人たち。

 背伸びして大人になったような奴らばかりだ、ほんとに。どいつもこいつも背丈が伸びて少し知識を蓄えただけ。きっと中身は子供の頃から何ら変わってない。

 みんな、「大人」に擬態しているのだ。
 世間でいう「大人」というのも案外こういうものなのかもしれない。みんな真似っこしてさもそれっぽく装っているだけなのかもしれない。

 そんな思考を巡らせていると、偶然中学の同級生に再会した。久しぶりと言葉を交わして、彼から次に出た言葉。

「おまえも随分と大人びたな」

あぁ……。
僕は理解した。
僕もこれから、「大人」を演じなくちゃならないのだ。ビールの美味さが分かってしまう「大人」のふりをしなくちゃ、いけないみたいだ。

 友人になけなしの愛想笑いを振り撒いて、多くの「大人」達に溶け込む。一張羅を着ているくせして、こんなに情けない、不甲斐ない自分が悲しかった。

1/10/2024, 1:33:46 PM