いぐあな

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300字小説

守人形

『もうし』
 定年後、第二の人生の住処として買った古民家に移り住んで、数年。それまで何もなかったのに夜中に、突然、小さな影が枕元に立った。
『某はこの家の納戸に住む者だが、大切な御用が出来た。箱の封を開けてはくれぬだろうか』
 影はそう言って頭を下げた。

 翌日、納戸を開けてみる。前の住人が置いていった骨董品の箱のなかの一つが床に転がっている。これが影の箱なのだろうか? 俺は蓋の封を取るとそれを廊下に出した。

 その夜、また枕元に影が現れた。
『お手を煩わせた。お陰で旅立てる。目出度きことに奥方様のお腹に小さな生命が宿られて、一族の守人形として馳せ参じなければ』
 影は愛らしい武者人形。深々と礼をして、ふわりと消えた。

お題「小さな生命」

2/24/2024, 12:21:53 PM