6 ゆずの香り
ふわりとほのかに甘い香りが漂う彼はいつも上品で優雅な雰囲気を漂わせる。
もの腰優雅で誰にでも慈悲深い微笑みは、〝まさしく天使様のようだ〟と皆から慕われていた。
うっとりするような甘い声音は耳に心地よい。
キッチンに立つエプロン姿の彼を眺める。すらりとした長身は、じっと見つめる女性も多いだろう。
料理に柚子をあしらった、手の込んだ温かな料理が器に盛られた。材料の持ち味を生かした料理は、目に訴える美しさも大切にしているようだ。
私には作れない。無理だ。
ずーんと落ちこんでいると、料理を手にした彼が心配そうに顔を覗きこんだ。だが、その良い匂いに誘われてお腹がなってしまった。
「ふふ、お待たせしました」
にこっこり笑って、テーブルに器を置いた。
馥郁たる柚子の香り――。
『汚れなき人』
彼にぴったりな柚子の花言葉である。
12/22/2024, 12:44:45 PM