Keito

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「ぐっ…っ!………チャリがっ………進まねぇっ!!!」

と、ドラマのワンシーンかマンガの見開きページかのように大声で叫びたい衝動に駆られたが、ここは現実。
「ぐっ…っ!」までは声に出したが、「チャリが………」以降は心の中の呟きに留めた。
「声に出さなかった、俺えらい」まで含めて。

しかし、本当に進まない。
力いっぱい踏み込んでも、進む距離は普段の半分以下…。
30代にさしかかり、体力の衰えが入ってきている可能性も否めないが、なにより風が強すぎる。

「もう歩いた方がいいんじゃないか?」
という声がどこからか聞こえてきそうだが、だがしかし。
俺は、知っているのだ。

「もうっ…ちょいっ!」

また心の中で呟きながら、横道に入る角を曲がり、さらにマンションの方向、つまり、さっきの道と反対向きになる角を曲がれば…

「う、うわぁっ!?」

予想通りとはいえ、背中からもろに風を受け、思わず声が出た。

自転車は俺が漕がなくても、どんどん進んでくれる。
さしずめ天然のジェットコースター状態だ。

「ははっ、たーのしぃー」

意図せず、またも声に出してしまった。
いくつになっても、楽しいものは楽しい。
そう感じられる自分に「若いなぁ」と思いつつ、「少しは自分で進まないとな」と、小さく呟き、軽くペダルを踏み込んだ。

お題「追い風」





1/7/2025, 3:58:07 PM