言葉にできない(オリジナル)(異世界ファンタジー)
ラッツは一人で依頼を受けて町はずれに来ていた。
依頼人は町のギャングで、反対派ギャングを陥れる依頼だった。
悪に手を貸すのかと、アレスには拒否され、ユーズにはドン引かれ、ネオには憐れまれた。
ゆえの、一人だった。
依頼は果たしたのであるが、逃げる途中に蟻地獄のような落とし穴に落ち、囚われの身となった。
阿呆である。
死ぬかと思うほどの暴行を受け、地下の薄汚い牢屋に監禁され、今は地面に身を横たえていた。
(あー、失敗した)
片目が腫れていて、前が良く見えない。
肋骨が折れているのか、身動きすると痛い。
人質としての価値があるか確認中らしく、使えないただの雇われ冒険者だとわかれば殺されるかもしれない。
(どう逃げるか…)
見ぐるみ剥がされて、剣も道具も何もない。
10人くらいなら何とかなるが、それ以上はキツい。
動かない頭でグルグル考えていたが、寒いし震えるし、何だかどうでも良くなってきてしまった。
(失敗ばかりの間抜けな人生だったな…)
色々頑張ってきたけれど、ここまでかと、ラッツは目を閉じた。
ガチャリと音がして、ラッツはうっすら目を開けた。
死刑宣告かと視線を向けると、牢屋の前に見知った顔。
アレスであった。
右手に剣を持ち、刃が血で濡れている。
(どうしてここに?)
「ラッツさん?!大丈夫ですか?」
アレスはラッツが動かないのを見て牢屋の中に入ってきた。ラッツを起こし、肩を貸す。
「いてててて」
「我慢してください。歩けますか?」
ラッツは小さく頷いた。足がガクガク震えるが、肩を貸してくれればいけそうだ。
「どうして、ここに?」
「ラッツさんが帰ってこないから探したんですよ。全く。だからこんな依頼、受けなければ良かったのに」
「……面目ない」
道々、足元にギャングが多数転がっていた。アレスが叩き伏せたようであった。強い。
地上に出ると、地上は火の海であった。
「は?」
ギャングが火消しに右往左往している。
ぽかんとしているラッツの目の前に、剣が2本差し出された。
その手は毛深い獣の手。
ネオであった。
取り戻してくれた荷物と魔剣を、ラッツに差し出していた。
「なんで?」
ネオの代わりに、アレスが答えた。
「ラッツさんの救出に手を貸してくれたんですよ。ちなみにユーズさんも外で待機していますからね」
ネオは荷物をラッツの胸に押しつけて受け取らせると、背負っていた巨大な両手剣を構え、道を切り開くべく巨体を前に走らせた。
ヒトより大きな半獣が、巨大な剣を手に飛びかかってくる迫力は相当らしく、ギャング達は逃げまどった。
ラッツ達はギャングの砦を無事脱出したのであった。
「もー!!ラッツさん!!」
森の外れで待機していたユーズが傷を治してくれた。
と同時に、怒りが飛んでくる。
「心配したんですからね!!」
「しん、ぱい?」
「何で「どうして?」みたいな顔してるんですか!!」
本気でわからないラッツに、ユーズはさらに怒り心頭。
「アレスさんがどれだけ心配していたか!」
「え、私ですか?!」
「え?」
「あ、ええ、心配、そうですね。いや?」
「アレスさん?!めちゃくちゃ走り回って探してたじゃないですか?!」
アレスはラッツが持つ魔剣の行方が心配だったに違いない。その監視のためについてきているのだから。
ユーズに誤解させてしまったようだった。
「すまんすまん。まぁ、正直助かった」
ラッツは笑ってそう言った。
それまで黙って皆を眺めていたネオであったが、そこでポツリと、
「危険な依頼の時はせめて行き先を伝えて行くんだな」
と、ラッツに言った。
「へ?」
「合流した時くらいは助け合える。仲間だろう」
(仲間)
ラッツの胸が、震えた。
己の過失で失った、幼馴染の仲間達が走馬灯のように、浮かんで消えた。
二度と仲間などつくるまいと誓ったあの日を思い出す。
胸の震えが果たして、怒りなのか、恐怖なのか、喜びなのか。
自分の事なのに感情がわからず、ネオへの返答は言葉にできなかった。
4/11/2026, 3:07:00 PM