『鳥かご』
鉱山の調査から帰ってきた親方の手に提げられた鳥かごの中にはぐったりとしたカナリアがいた。
「もうこの山はダメかもしれん」
親方は鳥かごを僕に渡すと首を振って深く溜息をついた。長年栄えている鉱山で作業員が倒れて亡くなったのは昨日の話。有毒ガスが沸いたのかもしれないという親方の予想はカナリアが衰弱したことと親方が肌身で感じたことで確信となったようだ。作業員の中の下っ端でカナリアの世話を任されていた僕はいつかはここで働くものとばかり思っていた道が閉ざされつつあることと、いつも煩いぐらいに囀っているカナリアがまったく鳴かないことに戸惑っていた。鳥かごから小さく黄色いからだを手のひらに乗せる。ほのかな温かみを感じて声をかけるけれど、その熱は失われつつあった。
7/26/2024, 4:23:11 AM