《勿忘草》
ねえ。
ねえ。
気づいてよ。
僕はここにいるよ。
泣かないでよ。
こっちを向いていつもみたいに頭撫でてよ。
日向ぼっこしようよ。
猫じゃらしで遊ぼうよ。
いくら鳴いたって、つついたって、引っ掻こうとしたって、こっちを向かない。
ああ、そうか。
もう、戻れないのか。
また君と遊べるのはいつになるんだろう。
また遊ぶとき、君と話せるんだろうか。
忘れられてないだろうか。
怖い。
自分が、この大切な人の記憶から失くなってしまうのが。
自分が、ただの飼い猫だったものになってしまうのが。
空が赤に変わり始める。
君は泣きつかれて寝てしまった。
隣でうずくまる。
いつも感じていた温もりがない。
悲しいな。
落ちてく夕日を見ながらずっと考える。
夕日がなくなる瞬間、庭の何かが光った。
近づく。
それは、飼い主が大好きな花、勿忘草だった。
瞬間、それを咥えた。
...咥えられた。
そっと君の横に置く。
ありがとね。
君と出会って、幸せでした。
また、いつか。
月が昇る。
不自然に存在する勿忘草だけが、静かに揺れていた。
これはね、勿忘草って言うんだ。
花言葉は、真実の愛。
それと、私を忘れないで。
素敵じゃない?
この花はね、自分のことが人の心の片隅にあることを願ってるんだ。
常に考えるんじゃない。
ふと、思い出すような、そんな感じ。
寂しくなったら思い出すような。
こんな関係、最高だと思うんだ。
~一人と一匹の会話より~
2/2/2024, 1:44:04 PM