【愛を叫ぶ。】
雑居ビルの地下、手狭なライブハウスのステージで相棒のギターをかき鳴らす。色鮮やかに輝くサイリウムの海。観客たちの歓声。その全てが俺の血を熱く沸騰させる。
いつもならこの勢いのまま、最後の曲に突入する。だけど今日だけは、小さく息を吸い込んで一呼吸を置いた。
――いつだって俺の歌を笑顔で聞いて、そうして拍手を送ってくれた人。すごいねとキラキラとした瞳で笑う君にもっともっと喜んでほしくて、消毒液のツンと香る真っ白い病室を訪ねては拙い歌を紡ぎ続けた、俺の始まりの記憶。
ギターの弦を一つ、二つとピックで弾く。そうしてから勢いよく、曲を奏で始めた。普段この曲に込めるのは、来てくれたお客さんへの感謝。俺なんかのライブに足を運び、ファンだと言って応援してくれる人たちへと捧げるラブソング。だけどどうか、許してほしい。今日だけはこの歌を、ただ一人のために奏でることを。
二時間以上も歌い続けた喉は、枯れかけてガラガラだ。それでも構うものか。歌え、歌え、歌え! 俺にはそれしか、俺の心を表現する方法がないのだから!
五月の涼やかな風に攫われるように、旅立っていった美しい人。最期まで君に伝えることのできなかった愛を、全身で叫んだ。
5/11/2023, 1:22:05 PM