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「脳裏」

エリザベス女王の葬儀のニュースを観ている時、私の脳裏に浮かんでいたのは、餡かけチャーハンだった。

餡かけチャーハン。
「チャーハンはパラパラが王道」という方には、もう正面切ってケンカを売っているとしか思えない代物だが、意外と街の中華屋さんのメニューにはない。天津飯とも少し違う。私の中の餡かけチャーハンは、餡にお酢は入っておらず、どちらかと言うと中華スープを餡状にしてかけました、みたいな味だ。

1997〜1998年の間、私はロンドンで過ごしていた。少ない給料をコツコツと貯め、半年は語学学校、もう半年は放浪という計画だった。安アパートを借り、節約に為に、もっぱら自炊という生活だったが、月に1-2回ほど外食も楽しんでいた。

その時通っていたのが、チャイナタウンにあったWong Kei (ワンケイ)という店だ。「地球の歩き方」にも載っていて、「安くて美味いが、接客は最低」という評判だったが、私は気にしたことがない。3ポンドほどで、山盛りの餡かけチャーハンが食べられるのだ。貧乏学生にとって、これ以上に望むものはない。接客なんて、二の次三の次で十分だ。その Wong Kei で、私は、態度の悪い店員に、毎回餡かけチャーハンを頼むのだった。

お腹がいっぱいになれば、グリーンパークで昼寝をしているか、客の少ないギャラリーを見てまわるかという、お金はないけど時間はたっぷりというお気楽さ。

偶然にも滞在中にダイアナ妃の葬儀が行われ、バッキンガム宮殿周辺の群衆にまぎれて、悲しくもないのに悲しそうな顔をして見ていたりもした。

いろんな国の人と出会い、いろんな考え方を知り、いろんなことを体験したロンドン。

今でもロンドンと聞くと、楽しかった日々と共に、あの悪名高き Wong Kei を思い出す。エリザベス女王の葬儀で餡かけチャーハンというのも、そういうことだ。

死ぬまでに、もう1度ロンドンに行きたいと思う。その時まだ、Wong Kei はあるだろうか。

11/10/2022, 7:28:35 AM