『この世界は』
だれなんだ、まったく。学校の本に落書きをするなんて。
ぼくは筆箱からちっちゃくなった消しゴムを出して、図書室で借りていた本の落書きを消した。
でも鉛筆の落書きはまだいい方なんだ。なかには、ボールペンで書かれていて消せないものもある。そういう時はぼくにはどうすることもできないから、図書室の先生に気づいてもらえるようにメモを挟んで返却することにしている。
ぼくは背の順だと前から2番目で、残念ながら小さい方だ。
だけど毎日トレーニングを欠かさないから、力はともかく体力は同級生に負けてない。それに毎朝牛乳をたくさん飲んでるから、これから誰よりも身長が伸びていくはずだ。
ぼくはスポーツはそんなに得意じゃないけど、これだけはだれにも負けないということがある。
実はぼく、みんなの知らないところでいろんな良い事をしてるんだ。
朝、誰よりも早く学校に行って教室の机を並べて黒板消しをきれいにするし、校庭に乗り捨てられた一輪車をいつも置き場に戻しているのもぼくだし、だれもやりたがらない係も進んで引き受けている。
学校の中だけじゃなくて、街でお年寄りの荷物を持つのを手伝ったり、バスで席を譲ったり、道にゴミが落ちてたらぼくのゴミじゃなくても拾うことにしている。
でもそれを自慢したり、見せびらかしたりするのはなんかカッコ悪いって気がするんだ。ぼくは、あくまでも"さり気なく"を大事にしている。だれにも気づかれなくたっていい。むしろその方がカッコイイ。たぶん、だけどね。
でもたまに。本当にたまになんだけど、ぼくはだれかに言いたくなっちゃうんだ。
「この世界は、ぼくのこの手に守られてるんだ」ってね。
1/15/2024, 3:58:28 PM