こんな夢を見た。アラームで目を覚まし、私は体を起こす。
「もう朝…?仕事行きたくないなあ…」
何となく掛け布団の一点を見つめる。最初は気のせいだと思っていたが、少しずつ焦げそして煙が上がった。
「うわっ!」
驚いて立ち上がる。慌てて台所に行き、コップに水をくんで布団にかけた。水浸しになったが、火事よりはマシだろう。ふうっと息をつく。
「それにしても…」
今のは何だろう。一点を見つめたら、火が上がった。昔、理科の授業でやった虫眼鏡の実験みたいだ。
「もしかして私に見つめられると、燃えるのかな?」
試しに、壁に掛かったカレンダーを見つめた。じいっと見つめると、じりじりと一点が黒く変色していく。火が上がるといけないので、目を逸らした。もう一度見ると、やっぱり焦げている。
「やっぱり…」
私は、寝ている間にすごい力を手に入れてしまったようだ。何だか超能力者みたいで、カッコいい。
「でも、どうしよう…。これじゃ、仕事にならないよ」
そう、困るのだ。何をするにしても、必ず見つめなくてはいけない。身なりを整えるために、鏡で自分を見つめたら…。想像して私は身震いする。
「何とかしないと」
今日は具合が悪いと言うことにして、仕事を休もう。力を制御する方法を考えるのだ。職場に欠勤の電話を入れる。電話を終え、スマホを置くと私は目を閉じた。まぶたの裏が焼ける感じはしないので、目を閉じれば力は発動しないらしい。それからいろいろ試してみたが、やはり一点を見つめなければ焼けないことが分かった。
「でも、視線がずっと動いてるのって変だよね」
目を何かで覆うというのはどうだろう。仕事用の眼鏡をかけ、スーパーのチラシを見つめる。ボッと一瞬で火が着いた。
「うわわっ!眼鏡じゃ駄目だ!」
燃え上がるチラシを、あらかじめ水を溜めておいたタライに突っ込む。ジュウッ…と音を立てて鎮火するチラシに、私はため息をつき眼鏡を外した。危ない、危ない。やっぱり、仕事休んで正解だった。多分、凸レンズなのが悪いんだろう。他に何か目を覆う物は…。目をつむりながら、机の引き出しの中を手探りで探す。手に何か当たりつかんで見ると、派手な虹色のサングラス。これは、友人がふざけて買ってきた旅行のお土産だ。
「これも、試してみよう」
サングラスを掛け、古紙を見つめる。レンズに色が入っているのでよく見えないが、焦げてはいない気がする。恐る恐るサングラスを外すと、焦げは見つからない。
「やった…!」
喜んだのも束の間、私は気づいた。つまり私はこの力がなくなるまで、サングラスを着用しないといけないということ。面倒だが、度入りのサングラスでも買いに行くしかない。私は派手なサングラスを掛け、買い物に出かけた。店員に奇異の目で見られた気がしたが、背に腹は代えられない。私は、無差別放火犯にはなりたくないからだ。
「あー、疲れた…。でもこれでまた仕事が出来るし、仕方ないか」
ふと、窓の外に月が見えた。そう言えば、今日は満月だった。距離があるものを見つめると、どうなるんだろう?好奇心で月を見つめると、じりじりと月の表面の一部に黒い点が出来た。あ、しまった。
3/29/2026, 8:52:52 AM