香草

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「星明かり」

冬の夜の田舎道は真っ暗だ。
街頭すらなく、まさに一寸先は闇。いや闇じゃないか。
ポチの首輪が虹色に光っているから足元だけカーニバルだ。
チマチマふんふんと騒がしい首輪と同じくらい忙しなく散歩を楽しむポチは俺のことなど全く気にしないでズンズンと進んでいく。
俺はこのポチとの散歩時間が割と好きだ。本当は家族で一番懐いている母親と行きたいんだろうけど、なぜかポチは深夜に散歩に行きたがるので、完全夜型人間である俺の仕事になっている。
俺は俺で星空を堪能できるからポチとはwin-winの関係だ。

星空を見ると必ず星座を探してしまう。
小さい頃星座図鑑を読んでいたからある程度の星座なら判別できる。
特に好きなのはこいぬ座だ。こいつは一般人にはまったく見つけられないし、見つけられたとしてもただの2つの星なので不人気だ。しかしそのマイナーさが俺の優越感に繋がる。
冬の星座だとオリオン座がかなり有名だ。
これはギリシャ神話の英雄の名の通りバカみたいにでかくて、誰でも見つけやすいから面白くない。
ぼんやりと夜空を見ながら歩いているとポチがリードを強く引っ張った。
ポチは俺のことを家族間のカーストで一番下だと思っている節がある。
まあ当たらずとも遠からずなんだけど、犬に舐められるのは流石に俺も黙っていない。

「お前な、そんなんだとこいぬ座になれねえぞ?」
こいぬ座の元となったのは忠犬マイラという犬だ。
その昔、アテネ王に可愛がられていた犬、マイラは王が病で亡くなった後もその遺体のそばを離れなかったためそれを可哀想に思った神が星座にした。
まさに海外版忠犬ハチ公。ハチ公もその忠犬っぷりに銅像を建てられているのだから、人間には逆らわない方がいいんだぞ。
「なあ聞いてんのか?」
ポチを抱っこしようと手を伸ばした。
ポチはめんどくさそうにこちらを見てヴゥと唸った。
お前を星にしてやろうか、という声が聞こえた気がして俺はすんません、と手を引っ込めた。

4/21/2025, 7:10:26 PM