ミロワール

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【狭い部屋】

カーテンを閉め切った部屋にひとりきり

扉の向こうからは怒鳴り声

窓の向こうからは催促されるような風音

視界なんて元から暗闇が広がっていて

あって無いようなもの

時々、雑音に混ざって僕を呼ぶ声が聞こえる

僕以外の全ては僕を傷つけるから

尚更強く耳を塞いだ



僕を呼ぶ声が聞こえるようになってから

何故か部屋の中が少しづつ変わっていった

僕は扉を開けていないし、窓も開けていない

それなのに部屋の片隅に咲いた1輪の花

その花の名前さえ知らない

そんな色だって初めて見た

灰色がかった世界に現れた歪なもの

いつもの様に

周りがそうしてくる様に

それを千切って踏み潰さなくては

そうは思うものの何故か視線を逸らせず

耳にあてがっていた手が花へと伸びていく

そのまま自分の首を絞める様に

綺麗な花の花弁のすぐ下で切り落とさなければ

傷つけられて後悔してからでは遅いから

そんな思いとは裏腹に手のひらは

自分から花を守る様に覆って隠す

僕を呼ぶ声がする

耳から手を離してしまったから、

その声が直接耳に届いてしまった

もう一度耳を塞ごうとして花から手を離す

そして気がついた

その花から声がすることに

僕の名前が本当に久々に誰かに呼ばれたことに



それから言葉を返さない僕に

そのお花はいつも声をかけてきた

僕と同じ場所にいるから

どうしても声が聴こえてくる

そういえば最近は扉の外の雑音も

窓に打ちつける雑音も気にならなくなっていた

僕は少しづつ耳を塞いでいた手を離し

あの時ぶりにお花と相対する

そしてお花が話していた言葉を真似して話してみた

するとお花は左右に大きく揺れる

外にいる鬼に教わった。お花が話すわけないと

それでも僕には、

僕に対して話しかけている様にしか見えない

いつか、耳を塞ぐ様になるずっと前

耳を塞ぐことを覚える前に

この手を取って欲しかったということを思い出した

このお花がそれをしてくれている様な気さえして

それに気がついた時、本当に久々に自分の涙が流れ落ちた



このお花は僕の宝物だ

外に居る鬼たちに触れられない様にしなくては

傷つけられない様にしなくては

その為にはこの狭い部屋を要塞にしなくてはならない

誰も入って来ないように

誰もこの場所を悟らないように

そうして僕とお花だけのユートピアが出来上がった

2024-06-04

6/4/2024, 2:23:44 PM