※微ホラーかもしれない。
ヘッドライトが目前を照らした。
山間部を走る我が車は、目の前を懸命に照らすも霧で何も見えない。
「濃いな……」
思わず口から漏れ出た。
のろのろ運転する気はないが、こうも濃霧だと速度もあまり出せない。
カーブの多い道を前方から来る車に注意しながら私は進んでいた。
しばらくすると、霧は晴れていないのに、辺りが明るくなった。対向車がいるのかと思ったが、光の具合からしてそういう風ではない。まるで光に包まれているかのようだ。
「ん?これは……」
警戒しながら進んでいると、霧は濃いまま、光だけ強くなった。
その内雲の中を進んでいるかのようになり、辺りが真っ白になった。
前がまったく見えないまま、私は何故かブレーキを踏むことをせずゆるゆると進んでいった。
(この先には何かが待っている)
どうしてだかわからないが、私には確信があった。
止まらず進んでいると、この先にいいことが待っている。それが私を待っている。確かな希望を持ってアクセルを踏んでいた。
真っ白な霧の中を進み、光が強くなったと思ったら――。
そこは山の入り口だった。
つい2時間ほど前までいた山の麓。
赤と青の帽子をかぶった子どもに見えない子どもの『飛び出し注意』の看板。緑地に赤色の文字で書かれた、あの独特な道路標識のようなボード。
「いったいなんだ?」
そして通行しようとする先にある立ち入り禁止の棒。
(さっきはまではなかったのに……)
背筋がゾッとした。
さっきまでは進もうとしていたのに、いまや進む気はまったくなかった。
それよりも。
(早く戻らなければ)
来ていた道を戻ることに精一杯だった。
指先は冷たいのに、額から汗が止まらない。
訳も分からぬままハンドルを握り、私は急いでUターンした。
峠越えをする予定だった道を迂回したため、随分遠回りで家路に着いた。
あの不思議な現象はなんだったのだろうかと思ったが、あの山の麓での寒気を思い出すと考えることさえ恐ろしくなり、私は思考を放棄した。
/10/18『光と霧の間で』
ガラガラと音がした。
それは砂時計の中からした。
普通、砂時計の音といえば、サラサラとかスルスルとかするものだが、それはガラガラと音を立てていた。
中に何が入っているのかと思えば、砂ではあった。
ただし、岩のような大きな砂粒。
砂が大きくなったのではない。
私が小さくなったのだ。
私は砂時計の枠に立って、自分の背丈ほどもある砂粒が落ちていくのを見守っている。
ガラガラと、まるで何かが崩れていくような音。
大きな砂粒が重なる音は、鈍く打ち合って酷く耳朶を歪ませた。
(ああ、私はどうしてこんなところに――)
アリスのように小さくなってしまった理由もわからない。
考えていると、いつの間にか私は砂時計の中に入っていた。
岩のような砂が頭上から降ってくる。
潰される。そう思った矢先、目を覚ました。
頭がガンガンと痛い。
割れるような痛みに思わずこめかみを押さえながら枕元を振り返った。
いつの間に置いたのか、そこに砂時計が鎮座していた。
砂時計は、今しがた砂が落ちきったかのように、さらりと一粒砂を落としていった。
/10/17『砂時計の音』
10/18/2025, 1:36:28 PM