夜に懸ける

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夜明け前に


ーーなんだかものすごく懐かしい事を思い出した気がする。記憶が見せた夢か何かか?
自然と目が覚めてしまった。時計を見ると夜中の3時を指していた。まだ全然寝られるな。
もう一眠りしようと目を閉じる。が、ものすごい物音と光で1秒も持たずにまた目を開ける事となった。

ドゴン!!

急に天井付近から光の輪が出たと思ったら次の瞬間にはそこから人が床に思いっきりぶつかっていた。
そして間髪入れずに隣の部屋から壁ドンされる。

あぁ、うるさくしてごめんなさい。でも犯人は私じゃなくていきなり天井から落ちてきたこいつです。え、てか泥棒?不審者?ストーカー?え、なに???

あまりの衝撃に何もできずに目をかっ開いたまま布団の中で固まっていると、落ちてきた人らしき人が、何やら「いてて…」と頭を抑えながら呻いている。意外と可愛らしい声だった。
暗くてあまりよく見えないが、背丈もそれほど大きくなさそうである。これは…子ども??男の子??
こんな時間に子どもが泥棒で不法侵入するとも考えにくい。となると残された選択肢は、そうか、幽霊か。
きっと私は金縛りにでもあっているんだろう。どうしよう、金縛りなんて今までなったことないよ。これどうすんの?呪われちゃうの?というか、この部屋もしかして事故物件だったのか。道理でいい部屋の割には家賃安いなとか思ってたんだよな。

私は別に普通の人間なので、幽霊だろうが不審者だろうが怖いものは普通に怖い。
しっかりパニックに陥り呼吸困難になっていると、きょろきょろと周りを見渡していた幽霊(仮)とばっちり目が合ってしまった。
「お姉さん、大丈夫??息できてないじゃん!とりあえず深呼吸しよう!」
めちゃくちゃ心配してくれた。すごいいい子じゃん。
いい子な幽霊(仮)くんは、私を起こして懸命に背中をさすってくれる。すごいいい子じゃん(2回目)。
「驚かせてしまってごめんなさい。ちょっと座標を間違えてここに辿りついちゃったみたい。本当だったら○○区?ってところに着くはずだったんだけど…」
幽霊くん(仮)の方が顔を真っ青にしながら謝ってくるので、だんだんと冷静になってきた。こんなかわいいいい子を不安にさせてはいけない。
「大丈夫大丈夫。ちょっと、いや、かなりびっくりしたけどもう落ち着いたから。」

未だに背中をさすってくれている幽霊くん(仮)を見やる。
綺麗な青みがかった黒髪、ぱっちりとした目、きめ細かい肌、なかなかの美少年だ。年は中学生くらいだろうか。変わったデザインの制服を身に着けている。足は……ある、から幽霊じゃない……のか…?
でも天井にいた、というか降ってきたし。幽霊ではないなら宇宙人とか?うーーん。
だめだ。全然考えがまとまらん。というかもう眠い。
どのみちこんな夜中じゃあ行動するにも不便だし、この際朝になってからなんか色々どうにかすればいいんじゃない?そうだよね、そうしよう。

急に黙りこくって考え込んでしまった私を見て、さらに不安になったのか、少年は非常にオロオロしている。うん、とても良い子だ。しばらく家にいても害はないだろう。とりあえず睡眠をとろう。

「あのさ、君。色々聞きたいことはあるんだけど、眠すぎて頭回らないからとりあえず私は寝る。起きてから話をしよう。ってことで、君も朝まではこの部屋にいるように。じゃあ、おやすみ」
そそくさと布団に潜る。「え」とか「あの」とか焦った声が聞こえたが気にしない。ここに来て形勢逆転である。
「君も眠るならそこのソファ使ってくれればいいし、起きてるならテレビでも適当に観てていいよ。この部屋好きに使っていいから」
「わ、わかった…」
「よし。じゃあ今度こそおやすみー。」
「お、お休みなさい…」

少年の返事に満足して眠りにつく。困ったような、ほっとしたような表情を浮かべるその子にどこか見覚えがあるような気がした。

眠る直前に見た窓の外は、夜中にしては明るく、夜明けにしてはまだ暗い。夜明け前の空は、記憶の中の少年と同じ綺麗な髪の色をしていた。

9/13/2023, 6:08:22 PM