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さぁ冒険だ。













 小さなころはツツジを秋の花だと思いこんでいた。

 春の花だと知ったのは、中学生のころだ。実際に咲いているのを見て春だと思った。なんでこれが秋の花だと思ったのか。見れば見るほど春の花だ。春のちょっと黄金っぽい日差しを浴びて、ピンクの花弁が輝くようになっていた。これが祖母の家の庭でのことだった。

 小さなころはこの時間、兄と、姉と、その友だちといっしょに遊んでいた。わたしは大抵、お荷物なので嫌がられていたが、母親が混ぜてあげて、と兄と姉にいって預けるので、厚かましくも着いていった。

 わたしは自転車に乗れない。兄、姉の友だちはみんな自転車で来ていた。田舎なので、一番近くの公園までも遠かった。兄、姉が通う小学校まで行くことになった。うちの自転車は一台だったから、兄と姉はいつも交代して乗る。兄と姉のどちらかは、わたしといっしょに歩道を走った。

 五歳のころの話で、しかも徒歩だったから、小学校はすごく遠く感じた。
 ちょっとした冒険だった。
 今この話をしたのは、その小学校にある来賓用駐車場脇の花壇に、ツツジが植えられていたからである。

 小学校で遊んでいたべつの子たちとも合流して、兄と、姉と、その友だちは、二、三のグループに分かれて遊びだした。
 兄たちは校区内をぐるぐるサイクリングをしに、姉はすぐとなりにある保育園へ遊びにいった。保育園は延長保育をしていて、夕方になっても園内に子どもがいた。
 わたしは休んでいるあいだに置いていかれて、姉のバスケクラブ仲間のお姉さんと学校で待った。

 夕方五時のチャイムが鳴って、こんな時間に、こんな遠くにいたことがないから、不安になった。
 来賓駐車場近くにはまばらに人がいて、一輪車を乗る子が通りかかったり、草を抜いて遊ぶ子がいたりした。

 兄や姉はわりとすぐ帰ってきたと思う。
 それから帰ろうという話になったけど、わたしは本当に帰れるのかなと思った。まだ学校に残るという人たちもいる。まわりに大人はいないし、怖くないのかなと考えた。行きは姉が走ったため、帰りは兄が走ることになった。兄と並んで走っても、わたしは置いていかれるばかりになる。でも、自分で着いてくるって決めたんだから、なにもいえない。

 実際には、小学校は近かったし、春の夕日は思ったより明るかった。なんでもないことだったけど、わたしは不安になって振り返った。
 何人かの子が花壇の縁に乗って、綱渡りをするように歩いていた。
 日はだんだん暮れていく。
 近くの山に夕日がかかって、辺り一帯が影に覆われた。
 学校のツツジはみんな濃いピンクで、影にあるとにわかに禍々しく見える。

 兄と、姉と、その友だちとに、置いていかれそうになりながら走って帰る。
 このときの、不安な気持ちが、もしかしたらツツジを秋の花に思わせていたのかもしれなかった。




2/26/2025, 1:03:39 AM