遠く向こうで、煙突から伸びた煙が、雲につながっている。
私の足は交差点に差し掛かっていた。
知らない道だった。
どこへ行くとも決めないまま、私はただ、ぶらつく足に任せて歩いていた。
今日は本当は予定があったはずだった。
とある行事に参加するため、私は朝から準備を整えて家を出た。
しかし、電車に遅れてしまった。
駅に着いた時点でその行事には参加できないほどの遅刻だった。
駅に降り立って途方に暮れた。
もう用事は無くなってしまった。かと言って、ここまで来たのに何もしないで帰るのは、なんだか不真面目なようで気が咎めるし、損をしたようで癪だ。
だから、私は歩くことにした。
足に任せて、駅からでたらめに歩いてみた。
何度か来ているはずの駅周辺なのに、知らないところは結構あるものだ。
私はなるべく、通ったことのない道や方向をでたらめに選んでは、歩いた。
未知の横断歩道を渡り、未知の交差点を未知の方向に曲がり、未知の店を目印に、辺りを見回す。
歩けば歩くほど、方向感覚は失われていく。
どこをどう歩けば駅まで戻れるのか、既にわからない。
さっき通ったはずの道筋や目印は、一足進むごとに記憶から朧げに消えていく。
それでも私は歩き続けた。
不安と好奇とモヤモヤとした何かを抱えたまま。
靴底をすり減らしながら。
私の足は未知の交差点に差し掛かる。
10/12/2025, 6:49:48 AM