「星に願いをかけることはあっても、月に願いをかけることはないよねぇ」
べろべろに酔っぱらったまーやちゃんは、がははと大口を開けて笑った。
深夜の公園には私達以外、誰もいない。
缶チューハイ一本で出来上がった安上がりな酔っ払いは、ブランコをきいきい揺らしながら饒舌に喋る。
「月のほうが願い事を叶えてくれそうな気がしない? わたしはする。だって、月って大きいし、ぴかぴかだし、目立つしさぁ」
缶チューハイを煽って飲み干してから、まーやちゃんはわざとらしい大きなため息をついた。
「そーだよ、そーだよ。月は目立つのにわたしは全然だめ。地味の地味子は今日もだーれにも話しかけられませんでしたぁ!」
まーやちゃんが大学に入学してから一ヶ月。大学デビューすると意気込んで頑張っていたのが空回り。人見知りの性格は直せず、未だに友達が誰もいない。
彼女の頑張りを私はよく知っている。それこそ、小さな頃から一緒にいるんだもの。
励ましの言葉を投げかけると、まーやちゃんは屈託笑った。その笑顔を他の人に見せられたらいいのにね。
私達はお互いの匂いを嗅けば、それでだいたいのことは終わるのだけれど。
人間の友達づくりとやらは、とても面倒臭そうだ。
「話を聞いてくれてありがとうね。行こ」
まーやちゃんは私を抱えて帰路につく。一匹で歩かせられないからって、首輪とリードをつけて抱えて散歩するのはちょっと不満。犬じゃないんだから。
「わたしの友達はあなただけなんだよねぇ」
まーやちゃんの腕の中から見た月に、私は「にゃあ」ととびきり可愛らしく鳴いて、彼女に人間の友達ができるよう願いをかけてみたのだった。
お題「月に願いを」
5/26/2023, 2:44:27 PM