ミキミヤ

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雨の日の昇降口、外をじっと睨んで立ち尽くしている男子がいた。その手に傘はない。傘を持ってくるのを忘れてしまったのだろう。もう最終下校時刻も近い時間で、今周囲に友人が居ないのをみるに、一人で帰るところだったようだ。学校所有の置き傘は既に出払っており、傘立てには誰の物かわからない傘が数本。雨が降り出す前に帰った人が忘れていったものだろう。
私は、自分の手元にある長傘と、鞄の中にある折りたたみ傘のことを思い浮かべ、しばらく考えた。今日はこのまま真夜中まで雨は止まない予報だ。そうしたら、今の彼が取れる選択肢は、2つ。諦めて濡れて帰るか、傘立ての中の人様の傘を盗んでそれをさして帰るか。前者は可哀想だし、後者は普通に窃盗なので、全く面識のない男子とは言え、やって欲しくないような気がする。となると、今私が取るべき選択は、1つ。
全く知らない男子、それも私よりだいぶ背が高くてがっちりした人に声をかけるのは、勇気が要る。でも、ずぶ濡れの男か窃盗犯を産み出すくらいなら。

「あ、あの」

小さな勇気を振り絞り、彼に声をかけてみた。彼は突然近くでした声に、びっくりした顔でこちらを見た。

「私、折りたたみ傘も持ってるので、傘、貸しますよ」

私が長傘を差し出しながら言うと、彼は困惑した顔をした。そうだよな、初対面の女子にこんな提案されてビビるよな、と思い、勇気を出して声をかけたことを少し後悔していた。

「いいんですか?傘がなくてマジで困ってたとこなんで、貸してもらえると超ありがたいですけど」

彼は少し恥ずかしそうに頭をかいた。私は彼が思ってたよりも親しみやすそうな人に感じて、安心した。

「はい。あなたにはちょっと小さいかもしれないですけど、ぜひ使ってください」
「ありがとうございます。あ、俺、3年C組の戸塚です。明日教室に返しに行けばいいですかね」
「あ、私、2年D組の朝上です。そうですね。私が3年生の階に行くのはハードルちょっと高いので、そうしていただけるとありがたいです」

彼は私の手から長傘を受け取り広げ、

「本当にありがとうございます!また明日!」

と告げると、雨の中を帰っていった。私も鞄から折りたたみ傘を取り出して、広げる。
彼の去り際の笑顔は晴れやかで素敵だった。私の小さな勇気がちゃんと人助けになってよかった。
私も晴れやかな気持ちになって、雨の中を歩き出した。

1/28/2025, 6:44:56 AM