白玖

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[愛を叫ぶ。]

「君が朝雲の新しい新造か」
「はい。先日朝雲姐さん付きとなりました、まめと申します」
「そうか。よろしく頼むよ」
そう告げて貴方は柔らかに微笑む。
それが、貴方との初めての出逢いでした。
そして、私の初めての恋情が生まれた瞬間でもありました。

「青木様、お久し振りでございます」
頭を下げ青木様をお迎えする。朝雲姐さんのお客であった彼は、私の水揚げの話を小耳に挟んだらしく自らその役を名乗り出てくれた。どうしてかと問うと「まめには幾度となく世話になったからね」と、また貴方は笑顔を浮かべた。
「ああ。朝雲には会いに来ていたんだが、確かに君と会うのは久方振りだったか。元気にしていたかい?」
「……はい」
「どうかしたのかい? 随分と堅苦しいようだけれど」
「青木様に水揚げをしてもらえるとは思っていなかったものですから緊張を、しているようです」
これは本当のこと。ずっと慕っていた貴方に水揚げされることに張り裂けそうな程に胸が高鳴っているもの。でもそれ以上にこの胸中を埋め尽くすもので上手く笑顔が作れない。
「大丈夫さ、そんなに緊張しないでくれ。君の緊張が僕にまで伝わるようだ。そうだ、少し話でもしようか。遊女としての名はもう貰ったのかい?」
「はい、夕霧と」
「霧に隠れる夕陽か、美しい名だ。まめによく似合っているよ」
「そう、でしょうか?」
「そうだとも。君はどこか儚げな印象があるからね」
「青木様にそう仰って頂けるのなら、今後胸を張って夕霧を名乗れそうです」
「ああ、君にこの上なく似合いの名だよ。でも、そうか……まめもこれから遊女として客を取ることになるのか。顔も知らない男共に少し妬いてしまうな」
「ご冗談を。朝雲姐さんに怒られてしまいますよ?」
「朝雲はこんなことでは妬かないさ。僕は彼女にとっていつまでも数多いる客の一人でしかないんだからね」
「そんなことは……」
「いや、いいんだ、まめ。ありがとう」
また貴方は笑う。私の前で貴方は笑顔しか浮かべない。私では貴方の弱さをさらけ出せる相手にはなれないのだと、寂しげに笑みを浮かべる度に思い知らされる。
「酒を注いでくれないか、夕霧」
「……はい」

行燈の火が吹き消され、貴方の手が肌に触れる。
(お慕いしておりました)
姐さん付きとなり貴方に出逢ったその日から、一日たりとも貴方を忘れたことはありませんでした。
声にしてはいけない想いを胸中で叫びながら、私は貴方の熱に身を委ねる。

5/11/2023, 1:15:01 PM