光合成

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『ラブソング』

その昔、私には愛する人がいました。
少し赤みがかった茶髪に色素の薄い瞳、ブラウンの柔らかい色のメガネが良く似合う人でした。

出会いは大学のサークルでした。
それは文化祭の実行委員会で総勢100人ほどの大きなサークルでした。
5月の爽やかな風が気持ちいいある日の昼下がり、私は入部届を出そうと部室に向かいました。
少し立つけの悪いドアをゆっくりと開けると、そこには誰もいませんでした。
電気は点いていない部屋は少し仄暗く、しかしそれが落ち着く明るさでした。窓からは日が差し込んでいてホコリが反射してキラキラと輝いていました。
私は荷物をいくつかある椅子の適当なところに置いて、部室内を観察しました。
壁にはたくさんのポスターと写真が貼り付けてあり、そのどれもに眩しいほどの笑顔が写っていました。

ふと、一枚の写真に惹かれ手を伸ばしました。
その時、ガタンッと扉の開く音がして反射的に振り向くと背の高いメガネの男性が立っていました。
それが、貴方でした。

あれから私は貴方に猛アピールをしましたね。
偶然を装って授業終わりに会ったり、コンビニについて行ったり。今思うとストーカーだとか、うざったい存在だったと思います。
それでも優しく笑ってくれた貴方の、そんなところが好きでした。

貴方の卒業の日。
私は貴方に曲を送りました。
昔から趣味で作詞作曲をしていて、その話をしたら貴方がぜひ聞かせて欲しいと言い約束をしていたのです。
これは私の最初で最後の人に贈った曲です。
私の精一杯の、等身大のラブソングです。
もう二度と作ることは無いでしょう。
貴方のいないこの世界では、私の作るラブソングなんてなんの価値もないのです。

どうして私を置いていったのですか。
優しすぎるのも困りものですよ。
それでも、私は貴方のそんなところも愛しちゃうのですから、お互い様ですね。
もう一度会う時には、また曲を作りますね。
貴方の為だけのラブソングを。


2025.05.06
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5/6/2025, 10:32:30 AM