あの子と僕と
二人だけの
二人で決めた
秘密のやくそく
「毎日、さいしょに目に入った花を摘んでくる」
ドクダミみたいなのも?
人の家に生えてても?
なんでも
なんでもよ
人のはこっそり持ってくるのよ
ばれたら終わり ゲームオーバー
花が見つからなかったら?
じゃあ、植物にしましょう
植物だったらなんでもいいわ
でも、二日ともおんなじのはだめ
おんなじ道を通るんだから、おんなじのばっかりになるんじゃないかなあ
ちがう道を通ればいいでしょ、馬鹿じゃないの
花にそっくりなあの子が言うことだから、僕はなんでも聞いていた
見ているだけでどきどきする、話すとトゲトゲしてるけど、そこも素敵な、バラみたいな女の子
次の日あの子は目が痛くなるような花を持ってた
ものすごいピンクって言うと、「これ、ツツジよ」って教えてくれた
僕は三葉のクローバーだった
次の日あの子はナノハナを弄んでた
僕はタンポポを持ってたから、黄色でおそろいだねって笑った
あの子も、春はピンクじゃなくて、黄色いのよって笑ってた
次の日あの子は腕いっぱいに白を抱えてた
なんの花かと思ったら、白色のアジサイだった
めずらしいのよ、きれいでしょ、
お日さまの光が当たったあの子はきらきらしてて、およめさんみたいで、僕のおよめさんになってくれないかって聞いた
プロポーズの花束がシロツメクサなんて、嫌よって笑われた
本当は僕、自分の持ってる花がそんな名前なのも知らなかった。でも、茎を割って指輪にするのは知ってたから、作ってあの子にあげた。
あの子は受け取ってくれたけど、指輪なら左手でしょ、ってまた笑われた
あの子は毎日きれいな花を持ってくるから、「ほんとうに最初に見たのを持ってきてるの?」って聞いたら、そんな訳ないでしょって言った。
悲しくって、僕、「酷い。嘘つき」って泣きわめいた。あの子が僕とのやくそくを破ったのがあんまり辛かった。からかわれたみたいで、悔しかった。あの子は、馬鹿、って一言言って、そのままくるりと向きを変えると走ってどこかへ行っちゃった
うん、どこかは知らないよ
あの子は二度と現れなかったから
今でも時たま、花を見ると思い出すんです
あの子の無邪気な、猫目を半月型に歪める笑顔
あの子は、花じゃなかったんですね
だから、出すのは蜜じゃない
毒なんです
その毒のせいで、僕は今でも、苦しめられている
毒はこの世の何より綺麗です
花よりも、正義よりも、規則よりも。
何よりも。
お題『ルール』
4/25/2024, 7:17:18 AM