終幕を迎えた文明があるとして、全てが終わった後に生き残った人が居たとするのなら⋯⋯その人はどんな人生を歩むのだろうか。
そんな疑問から始めた宇宙の旅だった。実際に自分で体験すると生き残れない可能性の方が高いけれど、この広い宇宙になら―――何処かに私の求める答えがあるかも知れない。そんな淡い期待から始めた事だった。
それは難航を極める旅ではあったものの、共に旅してくれるAI(あいぼう)のスターチスと、あらゆる試練を乗り越え何億光年もの距離を進みここまで来た。
前の星から約5年程宇宙を彷徨い、ようやく僕たちが着陸できる惑星を見つける。重力や表面温度等をスターチスに惑星外から測定してもらい、規定内に収まったため着陸する事にした。
宇宙船の扉を開けて目に入るのは、一面真っ白く霞む景色。次いで見えるのは大量の砂と霞む景色の合間に見えた建造物だけ。
とりあえずこの星に着陸し、この辺りを探索する。
どうやらだいぶ前に滅びた文明らしく、殆どの建造物は朽ち果てており瓦礫の山と化していた。私は他に何か文明に関するモノはないかと入れそうな建物を探したが、めぼしいモノもなく⋯⋯またいつ崩れるか分からない程朽ちていた為、屋内探索は諦めた。
この星の生命がどんな文明を築いていたのか⋯⋯気になりはしたものの、それを垣間見る為に必要な資料は得られそうにはない。ならばせめて、この文明が滅びた理由くらいなら知れないだろうかと、私はこの星を見て回る事にした。
そうしている内にある違和感を感じ、私は携帯端末からスターチスに連絡し、大気の汚染濃度を調べてもらう。
そも、文明が滅びた後の星というのは得てして植物が繁殖するのが基本だ。建造物はまだ辛うじて残っていると言うことは、滅びてから100年以上1000年未満の筈。
だというのに、植物が一切生えていないのはおかしい。
私は少し警戒しながら屋外探索を続けた。
そうして辿り着いたある開けた場所で、はじめて白骨死体を見つける。
これまでは朽ちた建造物以外見当たらなかったのに、それは瓦礫に囲まれた広い空間の中央に横たわっていた。
近付くとボロボロの布切れに所々包まれ、眠るようにそこにある。
倒れたと言うよりも、自らここを死に場所としたような⋯⋯そんな印象を受けた。
『船長! 大変です! 言われた通り大気の汚染濃度を調べたところ、AST7188系銀河で遭遇したSGウィルスを大量に検出しました! 直ちに船に戻り、この星から離脱する事を推奨します』
「成る程⋯⋯わかった。直ぐに船に戻る。マニュアルに従い衛生処理をした後、直ぐに離陸出来るよう準備しておいてくれ」
『了解』というスターチスの言葉を聞いて、私はなるべく砂埃を立てない様⋯⋯しかし、最速で船まで戻り宇宙服に付いた砂粒を出来る限り払ってから、船内へと戻る。
「スターチス、船の内部温度を3日間45℃以上に保ってくれ。一応精密検査を受けた後、必要なら抗SG薬の投与をするから準備しておいてくれ」
『安心してください、船長!
既に船内は47℃に保ち、船長が帰還されるまでの間に精密検査と抗SG薬の準備はしておきました! いつでも出来ますよ』
そう誇らしげに語るスターチスにお礼を言うと、私は宇宙服を脱ぎ対SGウィルス用の消毒液に浸ける。
その後直ぐに精密検査を受けたが陰性。しかし念には念をとワクチンを投与してもらった。
精密検査を受けている間に船はあの星から脱出しており、AST7188系銀河で搭載したSGウィルス用の宇宙船の外壁消毒システムも作動させているとの報告に、私は彼女に再度お礼を言う。
「君が相棒で本当によかったよ。その思慮深さと対応力に何度助けられた事か。感謝しても仕切れないな。本当にありがとう」
そう告げた私に「船長が無事で良かったです! これからもお役に立てるよう頑張ります!」とスターチスは心底嬉しそうな声でそう言った。
そうして私達の旅は続いて行く。私の求める答えが見つかるまで、スターチスと共に広い宇宙を流れて行くのだ。
5/29/2025, 6:18:44 PM