récit

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雨粒が単調に窓を流れていく。老人はソファにゆったりと座り雨の音をそっと聞く。孤独という名の雨音が耳に響く。彼の意識は半世紀前の記憶へと遡る。

今、その老人は15歳の少年に返っている。少年は初恋の美しい少女と、ひとつの傘の下でどこか夕暮れを歩いている。彼女と寄り添いながら一日の出来事を語り合う。幸せな雨の匂いがただよう。

しかし、彼女はいつしか孫の話を始める。少年が彼女を見ると、そこには艶やかな黒髪の少女ではなく白髪の見知らぬ女性がいた。そして彼自身もまた老人の姿に戻っていた。

幸福な雨も隣を歩く相手も一瞬にして消えてしまう。どうやら老人はうたた寝をしていたようだ。

老人の孤独とは、たとえば月の裏側を相合傘で歩くような幻想をいだかせるものなのかもしれない。

「相合傘」

6/19/2024, 2:43:07 PM