昔見た漫画にあったんだ。
とある彫刻家が切り株を虹の根元に見立ててカンカンと加工したら、勘違いした虹が切り株にくっついて、それを使って空に登って。雲を橋や階段にしたらまた登っていく。
『そんなに登ってどうするの?』
『なぁに、天使様に会うためさ。』
『天使に会ってどうするの?』
『俺の彫刻のモデルになってもらうのさ。』
「———なんて話があってだな。」
「ずいぶん昔の漫画だよね、それ。」
図書館で夏休みの課題をやっていたら、急に漫画の話を始めた。余裕あるなこいつ。
「そのあとモデルの天使に魔王の息子が惚れるんでしょ。でも天使は主人公に惚れててさ。」
「ずいぶん昔と言いつつよく覚えてるな。そうそう、魔王の息子は作ってもらった彫刻をずーっと見てんだよな。」
天使と悪魔の恋。いや、この場合は片思いか。昔からの不変のテーマなのかもしれない。
「で、それと宿題なにか関係あるの?」
彼がくるくるとペンを回す。器用なもんだ。
「虹のかけらって名前で切り株彫ったら自由研究出したらウケるかなって。」
「どうやって切り株持ち運ぶのかまで考えてたら素晴らしいと思う。」
どうせなにも考えてないんだろ、という言葉は飲み込んでやった。私ってば優しいなあ。
「勘違いした虹が目の前に出てきたら君が喜ぶかなと。んで、俺は虹の麓で天使に会う。」
なんでもないように言った言葉に、思わず回してもいないペンを落とした。
「え?」
「ん?」
こっちの固まった表情に気づかず、転がっていったペンを目の前に戻してくれた。意外と優しい。
「あぁ、せっかくだからワンピース着てくれよ。その方がより天使っぽい。」
顔色ひとつ変えず、彼はそう言った。
「え?」
「ん?」
相変わらず固まった表情には気付いていないようだった。
【虹の始まりを探して】
7/29/2025, 3:56:21 AM