小絲さなこ

Open App


「晩秋の帰り道」



少しずつ、少しずつ、色が変わっていくのを実感している。
街も行き交う人の装いも鮮やかさが抜けていき、渋く落ち着いていく。
そろそろ冬の足音が聞こえてくるだろう。

「来年の今ごろ、私たちはどこで何をしているんだろう」

呟き、立ち止まる彼女が空を見上げた。
鱗雲が傾いた陽を帯びている。

信号待ちの十字路。
点滅していた信号が赤に変わった。
前を横切る車の音が、沈黙の気まずさを救っている。

どう返していいか考えようとしても、頭の中がぐるぐる回ってうまくまとまらない。

このままでいられたらいいのに。
ずっと隣にいると言えたらいいのに。

果たせる自信のない約束をするのは不誠実だ。


「お互い、合格するように頑張ろう」
歩き出してから、月並みな言葉を返す。

まずはそこから。
これをクリアしてからでないと、彼女にこの気持ちを伝えることが出来ない。
まだ覚悟を決められずにいる俺には。


────哀愁を誘う

11/5/2024, 2:14:57 AM