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「最後の声」

*自死に関する記述あり、閲覧注意*





私の母は精神を病んで自死した。
私宛ての遺書には「ごめんなさい、こうするしかありません」と白い便箋にボールペンで書かれた文字は少しだけ震えていた。
私は自殺未遂をした母が精神科の病院を退院して、母が再び仕事に出勤するようになってもまた自分を傷つけるんじゃないかといつも不安だった。気が気じゃなくて気が狂いそうなほど心配していた。
入院中や退院後とは見違えるほど母の表情が明るくなってもまだ不安で、でも、ずっと私が母を見張っているわけにはいかなかった。
看護師の資格を持つ私は、精神疾患の回復期にも自殺が多いことを知っていたけれど、周囲は母が元気になって良かったと母や私のために喜んでくれていた。喜ぶ姿を見て、実はそうじゃないんです、と否定したらまた気遣わしげな視線を向けられるのが辛くて、私は母を精神を病んでいないお母さんとして接した。
そんな不安を母は見透かしていたのだろうか。
最後の声が「ごめんなさい」「こうするしかありません」はやるせなくて、私は自分を許すことができない。
でもそれは残された私が感じていることで、母はきっと私の幸せを願って自ら死を選んだのだとも思う。こうすれば、私が幸せになると信じて。だから母の優しさが、自死を選ばせたのだと、母の部屋の鏡台に置かれた通帳と銀行印を私は胸に抱きしめた。
私が涙を流せたのは、いつだったか覚えていない。
母に死化粧を施したときも、棺に花を手向けたときも、涙は流れなかったから。

最後の声は、とても重要なんだと自分に言い聞かせる。
私の家族の枷にならないように。






最後の声

6/27/2025, 4:03:24 AM