お腹すいたなぁ。
今日はお休みなので、彼と夜更かしをしたから目を覚ましたら時計の針が両方上を向いていた。
いっぱい眠ったなあ。
身体を伸ばしながらダイニングに向かうと、彼が歌を歌いながら楽しそうにご飯を作っていた。
私の気配に気が付かないみたいで、私に振り向くことはない。
そのまま彼に視線を向けていると、ティーシャツから透けて見える彼の肉体がなんとも……セクシーだなって思う。
顔や仕草は幼く見える方だし、太陽のような笑顔や明るさもそれに拍車をかけていて見落としがちなんだけれど。
彼の本職は救急隊で基本的に身体を鍛えている。だから、ふとした瞬間に大人っぽさと艶やかさを気づかせた。
私の恋人は格好いいな。
歌いながらリズミカルにフライパンを軽々動かしてくるんと振り返る。
「うわっ!!!」
「あ、おはようございます」
「起きていたんだ、おはよ」
彼はフライパンを持ったまま、びっくりして動きが止まったけれど、すぐに見慣れた笑顔を私に向けてくれた。だからつられて笑顔になる。
ああ、やっぱり彼が大好き。
「そう言えば、今日は機嫌良いですね」
「え、なんでそう思うの?」
彼は作っていたお料理をお皿に乗せながら、私の前には美味しそうな湯気を揺らした食事が彼の手で並べられていく。
「歌を歌っているの、めずらしい」
ガタンガタンガタンッ!!
言ってる途中から彼が椅子から転がり落ちた。私もびっくりして立ち上がると真っ赤になった彼が私を見上げていた。
「聞いてたの!?」
「え、ダメでした?」
「忘れて!!!」
彼がこんなに顔を赤くすることがないから、私は面食らってしまう。わ、耳まで真っ赤だ。
「えー、忘れたくなぁい」
「ダメッ、忘れて!」
「ヘタじゃないのになんでですか!?」
「忘れて!!」
ほんのり涙目になっている。きっと本当に嫌なんだと思うんだけど、とても可愛い。
いじわるしたくなる気持ちを抑えて私は彼の前にしゃがみこむ。唇をとがらせて見上げている顔はより幼さを強調して可愛い。
可愛いけれど、これ以上やったら怒っちゃいそうだからここまで。
「はぁい、忘れます」
彼を困らせたくないから、本当に嫌なことだと分かったから、この件は心の中にしまっておく。
私の思いの理解した彼は安心したように笑う。
何事も無かったように手を伸ばすと、その手を取ってくれて、引っ張りながら立ち上がらせた。
「ありがとう」
今は胸にしまっておくけれど、いつか心のトゲが取れたら、今度はちゃんと聞かせて欲しいな。
おわり
三七三、歌
5/24/2025, 1:51:22 PM