イオリ

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目が覚めるまでに

 帰ってきてソファに直行した。電気もつけず、座り込む。

 夜闇の壁をじっと睨む。ここ半年、同じことの繰り返し。闇しか見えない。が、そこにある全ては記憶に焼き付いている。

 壁には無造作にキャンバスが立て掛けてある。下絵のままのキャンバス。

 コンポジションはマティスのダンスを模していた。手をつなぎ円を作る。ダンサーたちの躍動感あるポーズからは、原始的な生命力
が溢れ出ている。

 マティスとの違いは、不特定のダンサーではなく、知っている顔であるということだ。

 私と彼女、そして私と彼女の門出を祝ってくれた友人たち。鉛筆の線だけだが、仲間内では誰が誰なのか一目でわかる顔だった。

 1ヶ月もあれば完成ね。 彼女は言っていた。


 突然の事故。なんの言葉も残さず、彼女は消えてしまった。
 
 
 一日の疲労が静かに眠りを誘ってきた。ソファに座ったまま目を閉じると、いつも通り、キャンバスに向き合う彼女が浮かんできた。

 あのときと同じように、私は新聞を読みながら、時折、筆を走らせる彼女の後ろ姿を見る。

 筆先の絵の具は何色だろうか。よく見えない。

 私や友人たちは何色で染めるのだろうか。マティスと同じように赤なのか、それとも別の色なのか。

 なあ、君はどんなふうに描きたかったんだい?

 いつも同じ夢。いつも同じ問いかけ。

 1度も返ってこない問いかけ。

 いつか。いや、 

 今度こそ、目が覚めるまでに答えを見つけたい。

 今度こそ。

8/3/2024, 1:37:00 PM