「師匠、みてみて!」
それは幼い声だった。ベージュの髪を一つに結び、カーキの眼で、手に持っているそれを見つめる。
十にも満たない柔らかな指は、藍色の石を掴んでいた。
「おやー綺麗な石じゃん。よく見つけたね」
そう言葉を発したのは、黒いナニカ。人の輪郭を全てぼやけさせ、黒煙に変えたその姿は、見る者によっては気を失ってしまいそうな姿だ。
霧の中に光るライトの様な、金色の眼と、針金で作った様な黒くて細い手が、幼い子供の頭を優しく撫でる。
「ちっちっちー師匠わかってないね!すごいのはここからだよ」
幼子は自慢げに言うと、藍色の石を両手の手のひらに乗せる。深い息を吐き、ふっと声を出して、お腹に力を込めた。
すると手のひらから風が吹き、下から上へと上昇気流のようになる。石はカタカタと揺れ、数秒も経たずに風に負けて浮かび上がった。
「!!いつの間にそこまで」
「師匠がいない間に、おぼえたんだよ!っとうわぁ!」
集中力が途切れたのか、風はスイッチを切ったかの様にピタリと止まり、小さな石は落下して、手のひらからこぼれ、地面に着陸する。
幼子はそれを拾い上げ、石を見せつけてポーズを取る。
褒めて欲しい。と、体で表す様に。
師匠と呼ばれた黒いモヤは、そのあと、長い間幼子を褒めた。幼子がもうやだ!、と言うまで。
「ずっとこのままでいいのに」
「師匠なんかいった?」
「ううん。なんでもないよ」
お題『子供のままで』
5/13/2026, 7:17:09 AM