「君を照らす月」
ショーの幕が降りて、5時間が経っていた。
雑居ビルに貼られた立ち入り禁止と書かれた看板を通過する、ロープをくぐって、更に階段を登る。普段ならこんな手間をかけないのに、今日はどうしちまったんだろう。
ドアノブを回すと、旗が靡くようにドアが開く。深まった夜の冷たい空気が横切る。月明かりに照らされる彼は、ひたすらあの曲を口遊んでいた。ため息をついて、ファーストフードの入った袋を揺らしながら彼の横に座る。
「今日もハンバーガーかぁ。」
「食べられるだけマシだと思ってください。」
安っぽい炭酸飲料とハンバーガーを取り出して、彼に渡す。瞳は俯いたまま、花占いをするように紙を捲った。
緩やかな風が吹く、彼の前髪が揺れる。睫毛と交わる。
自分も瞬きをして、コーヒーとフライドポテトを取り出す。彼の視線の先に目を向ける。ひたすら続くビル群を見渡す。信号機の音が聞こえる。至って普遍的な景色なのに、今日は少し特別に見えたのは、満月のせいだろうか。
「...今日が終わったら、あなたはどうするんですか。」
「んー、別に、またここでやり直すだけだよ。」
「ですから、それじゃ何も変わらないんですよ!!」
静かな空気を裂くように、声を荒らげてしまった。
コーヒーが一滴揺れて、コンクリートの隙間に染み渡る。
彼は何も言わず、ハンバーガーを食べている。その何も語らない瞳をみてハッとする。ポテトをひとつだけ掬う。
「毎回言ってるけれど、それでいいんだって。おれの役はここで終わりなの。配役もセリフも文句は無いんだよ。」
目頭が熱くなる感覚がした。
冷えた風が俺が言葉にしなかった寂寥感を届ける。そう、確かに彼の言ってる事は正しかった。この思考の中身は、ただのエゴでしかない。その事実に心臓が締まる。
噛んでいたポテトを飲み込む。彼の横顔を見る。無駄に月が明るくて、こんな状況でも格好いいと思ってしまった。そんな自分が嫌になる。
「...確かに、これが無かったらあなたとは出会えませんでしたけど。」
数を重ねる度に活気が無くなっていく劇場。ツタが生い茂った雑居ビル。安いことだけが取り柄のハンバーガー。それだけの空間でひたすら笑う影。満月に落ちていく炭酸。
どうしようも無かった。そう思って諦めと覚悟を決める。
「知っていますか?葬式って、結構体力いるんですよ。」
ビルの縁に立つ。
最後の一口を飲み込んで、コーヒーを月に落とす。彼を見つめる。目を見開いている。片手に持っているハンバーガーはまだ残っている。俺は勝ちを確信する。
「それじゃあ、頑張って下さいね。」
「...待っ
コートのポケットに手を入れる。彼の真似をしてステップをきめる。彼が口遊んでいた曲の名前を思い出した。満月はもうす
11/16/2025, 9:24:38 PM