ゆずし

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どんよりと覆う憂鬱な曇り空の下、墓石の上に呆然と座る一人の少女の姿があった。

ぼくに気が付くと彼女は、ぱあっと笑顔を浮かべて帰宅を待つ子犬のように嬉しさを顕にした。

「また、来てくれたんだ」
「でないと寂しがるだろう、君は」
「そうだね〜。親を除けば毎年ちゃんと来てくれるのは君だけになっちゃったよ」

何でもなさそうに笑っているけれど、その笑顔の裏に隠しきれない程の寂しさを滲ませていた。寒さの残る2月上旬の風に、ぼくはぶるりと身体を震わせる。幽霊である君は、寒さなど感じたりしないだろうか。

「はい、これ」

毎回の儀式、一輪の「勿忘草」を受け取った。

「また来るよ」
「うん。待ってる」

次に来るのは、お盆。その時にぼくは「紫苑」の花を彼女に渡す事になる。

勿忘草の花言葉は、「私を忘れないで」
紫苑の花言葉は───。

「ぼくは貴女を忘れない」

2/2/2023, 10:35:54 AM