星乃 砂

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子供のままで

「紳二、お前卒業したら働くって本当か?」
「あぁ、オレの家は母子家庭だからな、母さんにばかり苦労させられないからな」
「でも中卒だと就職も厳しいんじゃないか?」
「選り好みしなければ何とかなるさ。いや、何とかしなきゃ。」
「そっかー、お前とは高校でも一緒に野球やりたかったなー」
相棒にそう言われて‘オレだってそうさ’野球がやりたい。でも、いつまでも子供のままってわけにはいかないんだ。
父さんはオレがまだ小さい頃にケガをした。それ以来、軽作業の仕事しか出来なくなった。
それからは、母さんも働きに出ることになった。
オレには、5才年上の兄がいる。
兄は、高校を出ると働いだし家計を支えてくれた。
母さんの負担が減り、週3日のパートで済むようになった。
兄はいつも言っていた。「お前は好きな事をしろ。大学だってオレが行かせてやる」
ようやく人並みな生活が出来るようになったのに、悲劇は突然訪れた。
父は定期的に病院に通っていたのだが、その帰り兄の運転する車が事故にあった。相手の居眠り運転が原因である。
即死だった。
母はひとりで、オレを育てることになった。
もう、これ以上母さんに苦労はさせられない。

これから、三者面談がある。進路相談だ。その時、母さんにオレの気持ちをちゃんと伝えよう。
「それではお母さん、紳二君の進路ですが?」と先生が言う。
「進学です。」
「えっ!」思わず声が出た。
「紳二は進学させます。」母さんは何の迷いもなくそう告げた。
「なに言ってるんだ母さん、オレは就職するよ。これ以上、母さんに苦労させられないよ。オレだってもう子供じゃないんだ」
「苦労なもんかい。お前だってみんなと野球がやりたいんだろ。甲子園に行きたいんだろ。父さんや孝一だっていつも言っていたよ。
紳二には好きな事をさせてあげたいってね」
「母さん」胸が詰まり言葉が続かない。
「まだまだ、子供のままでいておくれ」

           おわり

5/13/2024, 9:44:37 AM