「菜穂子…」
いつか一緒に行こうと約束していた丘は思いの外風が強い
初めて会った、愛おしさを感じたあの日と同じ服を着た菜穂子が立っている
お気に入りの帽子を押さえながら、腰に届きそうなほどの髪は風に委ねている
綺麗だと思った
「菜穂子!」
風に負けないように声を張る
彼女がゆっくりとこちらを見る
いつだって優雅だった。なのにいつからか苛立ちに変わっていたゆっくりとした動き。今は柔らかさしか感じない。
「…きて」
「いって…」
「いきて」
風が吹く。先ほどよりもずっと強く。
目を開けていられないほどに強く。
風がやんで、目をゆっくりとあける。
現実がやってくる。
散らかり放題の部屋に、変わり果てて汚いと言われかねない自分の姿。そして、菜穂子がいない世界。
わかったから。生きるから。
その後に、もう一度会いに行くよ。
菜穂子がいなくなって気づいたこと、気づけたことあるから。
だから、俺を待っていてくれよ。
俺をおとしたあの時のあの笑顔で。
2/14/2026, 1:45:30 AM