九重

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仕事のしすぎでいよいよ頭までおかしくなってしまったのかもしれない。
いつも通りたっぷりと顧客の自慢話に付き合わされ、はぁそうなんですねさすが、と繰り返し、ようやっと契約書をもぎ取った帰り道。
ふと見上げた夕焼け空と木立の合間で、でっぷりとしたカラスが地図を広げていた。カラスは器用に地図をつかみ、あっちか、こっちか、と頭をひねっている。

「カラス…だよな?ロボット…?」

最近はエンタメ業界で精巧なロボットを開発しているという─たしかアニマトロニクスといったか─雑学がふと頭によぎる。それにしたって、何故こんなところに。一体だれが。

見つめる先でカラスは器用に羽根を使ってくるりと地図を回し、我が意を得たりとばかりに、あぁ!と鳴いた。

「ダメだ、本格的に頭がやられてる。暑いからかな。帰ろう、そうしよう」

じり、と後ずさりしながら駅近の病院がどこだったか考え始めた矢先、器用に地図を下ろしたカラスの黒曜石のような瞳と目があった。鳥の表情などとんと検討もつかないはずが、その鳥はひどく嬉しそうに──笑った、気がした。

『旦那ァ!旦那じゃねぇですか!』

終わりだ。俺の頭はもうとっくにおかしくなってたんだ。
この辺だとは思ってたんすけどぉ、ヒトの街は小難しくっていけねぇや、と何やら流暢に喋りながら飛んでくるカラスに見覚えなんてもちろん無い。空なんか見上げるんじゃなかった──と思いながら、俺はとうとう意識を手放した。

お題・空を見上げて思うこと

7/17/2024, 9:27:34 AM