須木トオル

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ハッピーエンド


笑ってさようならなんて、本当にあるのかな。
物語の主人公はどれだけでも自分を変えられる。
僕には無理だ。
だって僕は弱虫なんだもの。

「おい、クズ。俺はコーヒー買って来いって言ったよな」
「はっ…はい」
「なんで加糖じゃねぇんだぁ?俺無糖は飲まねぇんだよ」
「そ、そうですか」
「そうですかじゃねぇ!」
誰もいない校舎裏に、怒号が響く。夕焼けが彼の怒りの炎のようで、思わず目を瞑った。
「おら!さっさと処分しろ」
「しょ、処分って…な、んぐっ!ぶあっ…やめ、えぁごぼば!」
少し目にかかった前髪を鷲掴み、露わになった顔を上へ向けられると、1リットルのコーヒーを浴びせられた。
「どうだぁ?その腐った目、よく洗ってやらねぇとなぁ!ついでに口も!ハハハハ!」
「ばっ、めっで、ぐだあっばいぃ」
「あ?なんつった?…チッ、もう空かよ。…その汚ぇツラ、こっちに向けんな!」
「っ…」
彼は僕に空になったペットボトルを投げつけ、もう気が済んだのか、この場から立ち去った。
「明日も…分かってるな?クズのユウトクン♡」
脅し文句を残して。

笑ってさようならする方法なんて、僕にはないんだと思う。逆らっても駄目だし、助け舟なんてどこにも無いし。
いつからこうなったんだっけ。人に優しくしたって、優しさが返ってくるわけでもなくなって。
いくらもがいても、誰にも届かなくて。
もう、いいんじゃないかな。
もう充分だ。

僕は、クズ。
だから終わりにする。
これが僕の、ハッピーエンド。




おわり

3/29/2023, 12:26:59 PM