「宝物を、隠す、手に入れる、使う、売る。
宝物にまつわるエピソードってのも、まぁまぁ、書けるっちゃ書けるんだろうな」
俺の場合は昔々の、もう無くなっちまったデパートで買ってもらった、初代の赤版かなぁ。
某所在住物書きは昔々のゲームカセットに思いを馳せる――最初は水タイプを選んだ。
129匹集めて、誤操作誤プレイでデータが飛んだのは、苦く懐かしい思い出だ。
「今何匹居るんだっけ。1000匹……?」
ソシャゲが主戦場になってから、当時のような「宝物」は何に変わっただろう。物書きは思う。
それはきっと「花火」である。
美しいが、残らない。
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、
去年の春から1名、人間のお得意様がつきました。
実はお得意様の部屋に、こたつが実装されまして。
そのこたつを最近お得意様に売った店が、子狐の友達の子猫又が家業で手伝いをしてる雑貨屋さん。
更に深堀りすると、こたつ実装のお祝いに、お得意様がちょっと良いマグロのたたきとヒラメのお刺身を買ってったのが、子狐の友達の子化け猫が家業で修行をしてる魚屋さん。
お茶のオトモのおまんじゅうを買った先が、親友の化け子狸の和菓子屋さんのお店でした。
よし、みんなで一緒に、お得意様のおうちのこたつで、秘密基地ごっこをしよう!
と、なったのは、まぁまぁ、子狐たちが遊びざかりのまだまだ子供だったから、なのでしょう。
「おまえたち。あくまで、向こうはお客様なんだからな。ごメイワクは、ゼッタイするなよ」
イチバン年長さんの子カマイタチを先頭に、しっかり人間に化けまして、子狐も子狸も子猫もみんなして、とことこ、てくてく。
宝物の小さなランタンを、ひとつさげて、子狐のお得意様のアパートへ向かいます。
そのランタンを、こたつの中に置くことで、より秘密基地っぽさを引き立てようという算段です。
「ダイジョブだよ」
コンコン子狐、言いました。
大白蛇の酒屋さんから買った、子供用のぶどう酒ジュースは、ちょっと重いけど気にしない。
「おとくいさんだもん」
何がダイジョブなんだ、というのは気にしない。
ダイジョブというなら、ダイジョブなのでしょう。
さてさて。
「こんばんは!」
タシタシ、ぽちぽち。こたつが実装されたお得意様の部屋に到着。インターホンを鳴らします。
「こんばんは!」
でも、おかしいな。たしかにお得意様は部屋に居る筈なのに、全然反応がありません。
それどころかインターホン、鳴ってない気が……?
「居留守かなぁ」
こたつ実装のお祝いの、こたつにちなんだ生菓子を、おみやげに作ってきた子狸。
不安そうに生菓子の箱を抱えて言います。
「寝ちゃったのか?」
皆の宝物、小さなランタンを持った子イタチも、ちょっとだけ、不安そう。
子猫ーズの化け子猫と子猫又は、なんとなく、見当がついた模様。2匹もとい2人して、ヒソヒソ。
「アレかな」「たぶんそうだよ」
「開けてくれないなら、キツネ、開けちゃうんだ」
コンコン子狐が稲荷の狐のチカラでもって、呪文をとなえてドアをとんとん、狐のおてての真似した右手でノックしますと、ガチャリ!
お得意様の部屋のロックが解除されまして、
満を持してノブをつかんで、ドアを開けると、
「ありゃりゃ?」
お得意様のお部屋が、真っ暗です。
「その声、子狐か!」
その暗い部屋の奥から――といっても、子狐は夜目が効きますので、バッチリ見えておるのですが、
死角で見えないところから、声を投げてきました。
「助かった、そこのブレーカー……いや、そのランタン持って、こっちに来てくれないか!」
「ブレーカー?」
「ブレーカーだってさ」
「アレだよ。アレのことだ」
「勝手に動かすな。お得意さんに任せよう」
あらあら。ブレーカーが、落ちていたんですね。
それで部屋が暗くて、インターホンも鳴らなくて、ドアも開けてもらえなかったようです。
子狐たちがお得意様に、宝物のランタンを渡しますと、部屋はすぐに明るくなりました。
「はぁ、助かった!」
コタツとエアコンと電子レンジと、それから電気ケトルなんかも一緒に、一度に使ってしまった様子のお得意様です。宝物のランタンを子狐たちに返して、お礼を言いながら説明しました。
「今、私の後輩が部屋に来ていてな。風呂と洗濯機と……そうだ、ドライヤーを使おうとしてスイッチを入れた瞬間に、バチン、だ」
やっぱりね、やっぱりね。子猫又と子化け猫は2人して、顔を見合わせて、にっこり。
そしてようやく子供ーズは、小さなランタンをお得意様宅のこたつに入れて、秘密基地ごっこを始めましたとさ。 おしまい、おしまい。
11/21/2024, 4:02:47 AM