道端にコンニャク落ちてた

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テーマ:『こんな夢を見た』




 黒の下地にこれでもかとカラフルな塗装を施したハイカラな建物には、大きな看板にこれまたサイケデリックな配色で“DREAM☆STORE”とデカデカと書かれている。

 中に入ると打って変わって、白を基調とした清潔な空間が広がる。そのレイアウトは郵便局や役所に近く、カウンター越しに店員が接客をしている。カウンターの奥では電話対応や書類の確認などをしている従業員が見受けられる。

 受付を済ませ窓口まで行くと、店員は丁寧にお辞儀をしたあとにこう言うのだ。


 「いらっしゃいませ。ドリームストアヘようこそ。本日は夢をお売りになられますか。それともお買い求めですか」






 ここは夢を売り買いできる場所。“ドリームストア”
 世間ではドリストという略称で知れ渡っている。
 ここで扱う夢というのは寝ている間に見る夢のことで、その内容を買い取り、提供するサービスを行っている。

 気になるのは、果たして人が見た夢を買う者がいるのかというところだが、意外にもかなりの需要があるらしい。
 
 代表的なのは小説家、美術や音楽などのアーティスト。その他アニメ制作会社やテレビ業界などで買われている。

 もちろん、夢を売る側にとっても魅力的なサービスであるのに違いない。誰でも簡単にお金を増やせるのだから、正しく夢のようなお店なのだ。

 件のドリストは組織の急成長に伴い、WEB上での夢の売買のサービスを開始した。これにより勢いを増して世間に浸透し、今では知らぬ者などいない程の大企業となった。





 
 そんなドリストで、私は試してみたいことがあった。

 「夢、売りに来ました」

 窓口でそう伝えると店員は慣れた手付きで書類を準備し始める。売った夢の使用許諾に関するものや、今後のサービス向上のためのアンケート用紙。
 
 そして、売る夢の内容を記入する用紙。

 店員が各書類の説明をする。この欄をご記入くださいだとか、記入前にこちらをご確認くださいだとか言うのだが、決まって最後にこう付け加える。

 
 
 「お売りになる夢の内容には、付け加えや改変のないようにご注意ください。鮮明に覚えていない際はその旨をお書きください」



 曖昧な表現―――確かこうだった、こうだったかもしれない等―――で書く分にはいいが、嘘や誇張など意図的に夢の内容とは異なることを書くのは禁じるというのだ。
 妄想や空想なんかの作り話は論外なのだそう。

 私はこれに疑問を抱いていた。どうして純粋な夢である必要があるのか。また、実際の夢とは違うものを書いた場合にどのようにしてそれを検知するというのだろうか。

 私の試したいことというのは、実際に偽りの夢を売ってみること。そうすれば今の疑問も少しは解消するかもしれない。

 

 夢の内容を記入する際に、どうせならと完全な作り話を書いて提出してみた。
 店員がそれを受け取り、他の書類とまとめて奥の方へ持っていく。内容の確認だろうか、何か特別な機械に通したりするのだろうか。
 
 ドキドキしながら待っていると店員が戻ってきた。


 「ではこちらが、今回買い取り致します夢の金額でございます。この金額でお売りになりますか?」


 予想外にも売ることができてしまった。拍子抜けだが、結構いい金額だったこともあり、そのまま買い取ってもらった。


 疑問は残るが、別に本当に見た夢でなくともいいことが判明したので、これからは適当な作り話でも売りに行こうと思っていた。


 ―――出口の自動ドアが開かない。


 あれ、と思った次の瞬間。けたたましい警報と目を刺すような赤いランプが店内を飽和させる。

 いつの間にか店内の壁はシャッターが降ろされ、警備員がどこからともなく湧き出て私を囲う。

 警備員の一人が私の名を呼び、こう告げる。



 「売却された夢の内容に嘘偽り、もとい作り話が書かれたことを確認しました」



 乱暴に私の手を掴み、カシャリと手錠をかける。


 「あなたを逮捕します」




 

 


 


 
 ―――というところで目が覚めた。

1/24/2023, 8:19:13 AM