《刹那》
それは熱病のようなもの。
時が経てばすぐ冷めてしまう刹那的なもの。
若いうちにありがちな盲目的な恋。
周りの大人達は口を揃えてそう言うけれど、じゃあ、それのどこが悪いのかと問うても苦笑いするばかり。
今は熱に浮かされてるからそんな風に思うのだ、と。
諭す言葉は正論かもしれない。
だけど私の心を動かすものではない。
だってこんなに好きなのだ。
焦がれて焦がれて、身も心も焦げつきそうなほど。
寝ても覚めても考えるのはあの人のことばかり。
物語の令嬢のように婚約者がいるわけではない。
あの人にだって、恋人や想う人がいるわけじゃない。
何より、恋人になりたいだとか、両想いになりたいだとか、そんな大それたことを考えているわけではない。
ただ、想って、恋い焦がれて、遠くから見つめていられればそれで充分なのに。
時折、何かの拍子に目が合うだけで満足なのに。
叶わない想いなのは、言われなくても知っている。
身分違いだなんて、諭されるまでもなく分かってる。
だからどうか。
たとえ刹那の熱病であっても構わないから。
せめてこの胸の内の熱が冷めるまで、想い続けることを許してほしい。
絡む眼差しに、私と同じ熱が籠もっているなんて夢物語のような錯覚を、信じたりなどしないから。
4/29/2023, 8:49:35 AM