いぐあな

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300字小説

野に放たれた薔薇

 無垢で温室育ちの儚い薔薇だと思っていた。今の妻が関係を持ちかけ、彼女を追い落とす為、罪を捏造したとき、これを使って恩を着せることで、彼女の実家の公爵家の上に立てると目論んだ。婚約破棄を言い渡す私に彼女は一瞬晴れ晴れしい顔をした後、直ぐにしおらしく広間から出ていった。そして……。

 今、彼女は追放先の農園で、夫の幼馴染の庭師の息子と、以前から学んでいた植物の品種改良に勤しんでいる。今年も農園から新種の薔薇が届けられる。
『実は貴方に言い寄るように勧めたのも、捏造した罪を考えたのも、彼女自身でしたのよ』
 何時ぞやの妻の言葉が頭を過ぎる。
 春風が花瓶にいけた薔薇を揺らす、大輪の薔薇は艶やかに楽しげに踊った。

お題「無垢」

5/31/2024, 12:05:45 PM